4. おわりに 年度報告 めのものだとすれば、帰国後の「つながり」づくりは、時系列で変化した “私”に、未来の“私”をつなぐという、個人内での「つながり」をつくる作業と言えよう。 筆者が知る限り、SEND派遣の後に、長期交換留学・海外インターンシップ・就職活動などに踏み出した学生は少なくない。仮に、帰国後の振り返りを全ての学生に提供する仕組みがつくれたら、更に教育効果は上がったのではないかと思う。 4.1□ 対等な関係性から生まれる協働の成果 派遣チームは毎回、日本語教育に関する経験や知識量がまちまちの混合チームであるため、日本語教育研究科の大学院生に任せればいいと、学部生が消極的もしくは無責任になる状況が生まれることがある。また逆に、大学院生が日本語教育に関する専門性や教授経験を背景に“ミニ教師”となり、チームの方針をトップダウンで決めたり、メンバーを一方的に評価したり、という状況に陥ることもある。どちらも、チーム内には不協和音が生じやすく、準備作業にも致命的な影響が出やすい。 このように、属性の異なるメンバーが協働で作業に取り組む時、そこへ上下関係が持ち込まれると充実した成果は得にくいと言われるが、まさにその通りと思うことが度々であった。協働に詳しい池田・舘岡(2007:p.5)に「日本語教育の協働を考えるならば『対等』『対話』『創造』の3つの要素が重要」とあるが、SEND派遣の場合も、協働による優れた成果は、対等な関係性とそこから生まれる対話なしには生まれにくいのではないかと過去の派遣を振り返って改めて思う。これを調整し、協働的なチーム形成を促すことが筆者の派遣前指導の重要なポイントである。 そこで、準備が順調なチームにメンバー間の対話の様子を詳しく聞くと、面白いことに気づく。教育経験の豊富な或る大学院生は「学部生は日本語教育の経験はないが、新鮮な意見が出てきて非常に刺激になる」と語り、一方、彼女と同じチームだった学部生は「教育経験が豊富な大学院生の発言は勉強になる」と語った。そもそもSEND派遣は、所属学部や学年を越えたメンバー構成となるため、多様な視点がそこには存在するのだが、異なる視点を持つ学生同士がチームとして対話するうちに、単独の思考に他者の視点が加わり、新たにメンバー共有の創造が誕生することがある。まさに、池田・舘岡(2007)の指摘する「協働のプロセス」である。さらに多くのチームで、この「協働のプロセス」がどのメンバーにとっても意味あるものになる状態、即ち「互恵性」が生じていた。その理由を、筆者は次のように考えている。SEND派遣では、チーム内の対話による成果が、授業案であれ、文化紹介イベントであれ、出会ったASEAN学生の日本語学習や日本文化の理解に直結する仕組みになっている。つまり、本気でコンテンツを考えて準備しなければASEANの学生に迷惑をかける。このようなタスクの真正性が、彼らの対話や成果に影響を与えているのではないだろうか。 221
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