教員や学生と派遣前からやりとりできることで、人的ネットワークや安心感が生まれるばかりではなく、活動案の作り込みにも有益な情報が得られる。これが2つめの「つながり」である。 3つめの「つながり」が、別々の科目を学ぶ学部生・大学院生間のラポールである。前節で述べたように、渡航前の準備作業と、それを通じて形成されるチームワークは研修の充実を左右するため、2科目平行での開講ではあるが、派遣前の指導でもチームビルディングが可能になるように配慮している。例えば、科目を越えた学生の参加を推奨し、初回のオリエンテーションでは2科目の授業スケジュールを併記し配布する他、派遣先決定前に2科目の履修者が合同で取り組むグループ課題を出し、科目を越えて履修学生間にコミュニケーションが生まれるように心がけている。 □ 次に、後半の授業内容について述べる。派遣先が決定すると、授業目標は派遣にむけた具体的な準備作業が始まる。それが、①派遣先大学について知る②派遣先での活動内容を作り上げる、以上の2つである。ここからは、毎週ゼミ形式で各チームの文化活動の企画案や授業案を取り上げて検討し、現地での活動を具体的に決めていく。ときには、協定大学の教員やASEANなど海外で教鞭をとっておられる日本語教育の専門家や派遣OBOGに、活動案のコメンテーターをお願いすることもある。 3.2□ 帰国後のとりくみ SEND派遣前教育の正式な枠組みからは外れるが、参考までに派遣後の学習について述べたい。「海外実習」「海外実践A」いずれの科目も、派遣直前で15回の授業は終了し、成績評価も提出して科目としては終了する。派遣から帰国直後の報告会□□□ でチームごとに簡単な報告をする機会はあるが、派遣体験を十分に内省して検討するには至っていない。 しかし、希望する者にはその機会が得られるよう、筆者は派遣学生たちにいくつかの提案を繰り返してきた。単位も出ない自主的な学習なので、応じる者がいなくても不思議ではないが、SEND派遣の場合、筆者の勧めに応えて自発的に学び続ける学生は毎回少なからずいる。 まずは、学会発表である。筆者は、派遣が終了するたびに、学生のポスター発表が可能な学会や研究会を示し、SENDでの経験や発見を実践報告などの形で積極的に発表するよう促してきた。手を挙げるのは、研究業績をつくりたい大学院生が中心だが、大学院生・学部生という派遣チームの形そのままで発表に挑戦したチームもある。次が、後輩のためにゲストスピーカーとして授業参加をするケースである。事実を述べる活動紹介で終わることもあるが、自身の体験を客観的に分析した上で、それをたたき台として、後輩に「君たちならどうする?」と問いかけるワークショップ型の講義を行う者もいる。 いずれの場合も、自分の派遣中の実践を振り返り、自分にとってSENDの経験にはどのような意味があるのかを考える契機となる。学会発表に挑戦する学生は、発表者同士で何度も振り返りを行い、自分たちの派遣経験をメタ的に分析・評価することが多い。また、学生時代の目標や方向性を再点検し、次のステップへ結びつける者もいる。いわば、過去の自分と、派遣終了後の自分とをつなげ、さらに将来の目標へとつなぐ作業である。派遣前の授業における作業が、チーム内外や派遣先大学での他者との「つながり」をつくるた早稲田日本語教育実践研究 第5号/2017/199―260 220
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