学習者の授業に参加する態度/姿勢も変化していく可能性はあるかもしれない。また学習者の過去の教育経験など文化的要因の影響により,学習者の積極的参加が困難な場合は,学習者に教室での新しい言語学習の型を教えていく必要もあるだろう。教師は学習者との信頼関係を築きつつ,日々の授業や個別の対応などで,学習者が積極的に自由に自分の意見を述べることで裁かれることはなく,むしろそれを求めている(その必要がある),ということを根気よく学習者に伝え導いていく必要があるのかもしれない。最後に「クラスの雰囲気がとてもよかった。」という上記全体アンケートのコメントが示しているように,教師も含め学習者間の信頼関係を構築できる環境,クラス運営の重要性に改めて着目する必要があるだろう。そしてその環境づくりが,クラスにおける学習者の積極的対話への参加へとつながる可能性がある。「関係性の欲求」と「話す活動」との関連性も含め,学習者のクラスにおける対話(Interaction)での積極的参加への誘導は,今後もさらなる研究が必要であると考える。5-2.「欠点」「改善点」 ここで全体の 4%と少数ではあるが,学習者から回答された「欠点」のなかで,最も多かった項目について触れておきたい。まず 15 名のうち 2 名が「いいえ」と回答した「2.自由発表をして,発表するのが好きになった。」であるが,これは「話す」活動というより「発表」という活動に抵抗があった可能性がある。実際「いいえ」と回答した学習者のアンケートによると,「4.自由発表をして,日本語を話すのが好きになった。」ではそれぞれ「はい」と「とても」を選択し, 「3.自由発表をして,日本語を話すのが上手になった。」では 2 名とも「はい」と回答している。また「9.自由発表をして,クラスの人とほかの活動(ペアワークやグループワーク)がしやすくなった。」に「いいえ」を選択した 2 名についても,「10.自由発表をして,クラスの人のことをもっと知ることができた。/友達になれた。」にはそれぞれ「はい」と「とても」を選択している。これは個人的な人間関係と,教室での言語活動を通しての人間関係との差を示しているのかもしれない。しかしその一方で,「9.自由発表をして,クラスの人とほかの活動(ペアワークやグループワーク)がしやすくなった。」に「はい」と答えた学習者からは,「どこが/なにがしやすくなりましたか」という質問に対して,「活動/発表を通じて仲間がどんどん良くなった。」というコメントも確認されている。 また 14 の質問項目のうち,唯一記述式の質問であった「13.また自由発表をする場合,改善点,提案,要望などはありますか。」に対して寄せられたコメントは全 5 点で,アイコンタクトといった学習者自身の反省や,フォーマットをもっと教えて欲しいという要望もあった。また日本人の友達に文法や原稿を手伝ってもらうことによりたくさん学んだが,もし適当に準備した場合はその効果はないだろう,と書いた学習者もいた。これらは点数による評価もなく形式も自由であったため,その活動にかける時間/内容をどのように使い,取り組むかは学習者次第であることを改めて浮き彫りにしたコメントであると考えられる。しかし一方で,この学習者はクラスの成績に影響せず,自由に選択を託された環境のなかで,まじめに取り組み,質を追求し,多くを学んだとコメントしている。これは,なぜ学習者をそうさせたのか,というところにやはり立ち戻る。さらに残りのコメン18早稲田日本語教育実践研究 第5号/2017/3―20
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