早稲田日本語教育実践研究 第5号
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(すぎもと みほ,早稲田大学日本語教育研究センター)(みずた かほ,早稲田大学日本語教育研究センター)(おくむら けいこ,早稲田大学日本語教育研究センター)早稲田日本語教育実践研究 第5号/2017/187―188 1882-2.実践方法 4 レベルでは期末にプレゼンテーションがあるが,その場において聞き手にうまく伝わる発話ができるようになることを目標と設定し,以下の計画を立案・実践した。 まず,教科書本文を扱う際,「OJAD スズキクン」に本文を入れ,文節・プロソディーを意識した音読練習を行った。これは,本実践前に担当教師でスマホ音声認識アプリの認識度を試した際,文節・プロソディーが認識精度を大きく左右することが確認されたからである。4 レベル履修者の発話文の長さになると,文節・プロソディーの正誤が,音声認識アプリの認識度,換言すればその発話が聞き手に伝わりやすいか否かという点に大きく影響する。このことを,プレゼンテーション発表原稿を読み上げる練習に入る前段階で,各履修者に意識付けすることを目指した。 次に,期末プレゼンテーション発表原稿を読み上げる練習を行った際,各自が読んだ音声をスマホ音声認識アプリにかけた。対象とした部分は,各履修者の発表原稿のキーセンテンス,および「発表にふさわしい話し方」(発表時に常用されるあいさつ表現等をまとめたコース共通教材)である。そして,各自が自分のアプリで生成された文を見て,自らの発音の問題点を分析・発見するよう指導した。その後,スマホアプリで生成される文を発音正誤判断の目安としながら原稿読み上げ練習を続行し,それぞれの問題点に対する改善を促した。 なお,履修者には,スマホ音声認識アプリに向かって読み上げるのと同時に,その音声を IC レコーダーでも録音してもらい,各自の課題発見・内省に役立てるよう指示した。また,期末プレゼンテーションの後,事後アンケート記入を求め,総合的な内省を促した。 事後アンケート結果を見ると,上記教室活動の後も「自分でスマホ音声認識アプリを使って練習した」と回答した履修者が 15 名中 6 名いる。その中で「まあまあ役に立った」とした履修者は 4 名,「あまり役に立たなかった」とした履修者は 2 名である。率直な所感として今回の試みが大きな成果を上げ得たとは言い難い。原因の一つとして,スマホ音声認識アプリを日常生活でも常用していた履修者が少なく,その操作,例えばどの程度の距離でスマホを構えれば巧く認識するかといった点で困難があり,本来の練習活動が巧くいかなかった例等が考えられる。しかし,教室活動の中では,履修者が自らの音声がスマホ音声認識アプリをとおして正しく認識されるか否かに興味を持ち,誤認識された際には原因を内省しようとする意識を強く感じ,本実践にはある程度の手応えがあった。また,わずか 1名からではあるが,「携帯のほうがもっと便利と思う」という所感もあり,現在きわめて身近な存在となっているスマホを自律発音練習のツールとして活用し,ひいては更に広い範囲に及ぶ自律日本語学習ツールとして工夫する余地について,大きな可能性を感じた。3.実践結果・考察

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