□村 まちこ【実践紹介】早稲田日本語教育実践研究 第 5 号 科目名:「日本文学の名作にふれる」 レベル:初級 1・2 /中級 3・4・5 /上級 6・ 7・8 履修者数:10 ~ 30 名 中級から上級レベルになると,「古典」に興味はあるが,どの作品を選びどのように読んだらいいのかわからないという学生の声を多く聞いた。そこで,文学の中から,日本人であれば小学校から大学までに必ず手にする古典から近代までの 7 作品を取り上げ,原作の面白さや魅力に直接ふれ味わうことを目指した。 7 作品の原文を読み,日本人の価値観や自然観を知ること,集中して読むことにより,さらなる文学への動機づけや知的好奇心を刺激することを目的とし,最後に 7 作品の中から 1 作品を選び,読んだ作品に関してのレポート作成と発表をさせることとした。 授業で取り上げた作品は,古典 3 作品『枕草子』『小倉百人一首』『奥の細道』と近代の4 作品『坊ちゃん』『高瀬舟』『蜜柑』『走れメロス』 だが,本稿では,標題の特徴をよく表している古典 3 作品の授業内容に関して紹介したい。 古典で特に重点をおいたことは,単語一つ一つの意味や文法ではなく,全体のリズムや流れを感じ,光や色などのイメージを頭に浮かべ,季節の移り変わりを五感のどこで表現し描写しているかなどを見つけ理解することである。授業は,教師作成の作者の略歴と現代語訳付きプリントを配布し,時代背景と共に紹介する。学生も CD やビデオ視聴,ボランティアや仲間の声など様々な媒体から音声を聴くことで,目で文字を追うだけではなく,音を活用して心身に作品を取り込むこととした。 古典 3 作品では暗誦にも力を入れた。『枕草子』は「春はあけぼの」,『小倉百人一首』(以下,百人一首カルタ)は 4 週で 20 首(教師選択の代表歌),『奥の細道』は序段「旅立ち」である。また,『枕草子』では,学生一人一人が好きな季節を選び「私家版枕草子」を書く活動を行った。さらに『奥の細道』を学習した後は,季節や作者の気持ちを感じ取ることができるよう, 実際に早稲田キャンパス内を吟行して俳句を詠んだ。 「百人一首カルタ」は早稲田大学カルタ同好会有志に教室で実践披露と指導を依頼した。20 首暗誦時にはプロの着付けの先生方の協力を得て,浴衣(春)や振袖(冬)を着用し,1831.はじめに2.目的3.概要と流れ 触れ味わう日本文学
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