早稲田日本語教育実践研究 第5号
184/272

ごとにグループに分かれ,ディスカッションを行う。2-2.記事のテーマ 担当者が扱う記事のテーマは,「近年の時事問題」で「学生にとって比較的意見が言いやすいだろう」という点を考慮して選択している。例えば,最近,扱ったテーマには「選挙権の年齢引き下げ」「待機児童」「英語教育」「夫婦別姓」「さとり世代」「終活」などがある。2010 年に開講してから今まで扱ったものを振り返ると「若者」「教育」「家族」「文化」「ジェンダー」といったテーマが多い。学生が期末の課題として選ぶテーマは前述のテーマに加え「政治」「経済」「ビジネス」「医療」「軍事」「国際問題」など,担当者が選択するよりもさらに幅広く興味深い。ただ,中には単なる事実の報告や紹介など,意見を深めにくいものもあり,記事の選択も重要なポイントになっている。 最後のふりかえりから出る学生のコメントで最も多いのは「いろいろな国の学生と話し合うことができてよかった」というものである。その理由には「普段,他国の留学生と話す機会はほとんどないから」「友人との雑談で,時事問題について話すことはないから」「自分とは異なる視点を得られたから」などが挙げられる。 担当者にとって意外だったのは,授業外で行う日本人へのインタビューに対する反応であった。インタビュー活動は開講当初は行っていなかったが,クラスに参加する日本人ボランティアが確保できなかった際,その代替として始めた活動である。ちょうど現代の日本の若者についてのテーマであったので,記事に書いてあることは本当なのか確かめるという目的もあった。この活動に対し「普段,日本人とはあまり話す機会がないが,活動のおかげで話すきっかけができてとてもよかった」という学生が少なくなかった。このことから,上級学習者にとっても,日本人とのネットワークを作るのは容易ではないことがわかり,ボランティアが確保できた場合でも,インタビュー活動は行っている。 一番の課題は良質な記事を見つけることである。学生の興味に合い,かつ,適切な長さ,難易度の記事を選べるかどうかは授業の成否を決める重要なポイントである。これまで選択した記事がクラスに合わず,読解の時間配分がうまくいかなかったり,ディスカッションが盛り上がらなかったりしたことが何度かあった。回を重ねるごとに記事選びのコツはつかめるようになったが,今後も良い記事と出会うために日々アンテナを巡らせていきたい。もう一つは記事を読んで「日本(人)は〜」と単純にステレオタイプ化してしまう学生や「母国では問題にならないことなので意見が言えない」というような学生への対応である。学生がより多様な視点から想像力を働かせ,深い意見が言えるように働きかけていきたい。(つばな ともこ,早稲田大学日本語教育研究センター)早稲田日本語教育実践研究 第5号/2017/179―180  1803.学生の反応について4.今後の課題

元のページ  ../index.html#184

このブックを見る