早稲田日本語教育実践研究 第5号
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情報を載せた続報が出される。この練習では「東日本大震災」を扱っている。選んだ理由は,時系列でどのように報道するかを知るためと,他に類がないほど日本社会に甚大な影響を与えた災害だったためである。「号外」「第一報」「続報」と進むと,巨大な活字,写真,死傷者数などのデータの更新,図,分析・解説など他の記事にはない内容が次々に出てくる。新聞に特有の形式を学んで読むという当初の目的から,次第に記事の内容に深く切り込む読みに変わっていく。災害への対策はどうか,自治体や政府の支援は等,教師が水を向けなくても学生たちは真剣に考えるようになる。 毎週クラスの始めに数分間,媒体は新聞に限定せず,学生が関心を持ったニュースについて話す時間を設けている。以前ある学生が最近のニュースは知らないと言ったので危機感を持ったからである。少しでも社会に目を向けるように,毎回数人ずつ話している。また③の課題として,関心を持った新聞記事を選び,内容の要約と選んだ理由,記事に対する意見をまとめて提出させている。以下の見出しはその例である(‘16 年春学期)。 「EU 分断 西側世界裂く」‘16 年 7 月 3 日 日本經濟新聞 1 面 「待機児童深刻 2 万 3,000 人」‘16 年 7 月 5 日 読売新聞 34 面 「沖縄女性不明 元米兵逮捕」‘16 年 5 月 20 日 朝日新聞 1 面 「サンダース旋風 米の苦悩映す」‘16 年 6 月 21 日 朝日新聞 国際 15 面 他にも学生が選んだ記事はバラエティに富み,幅広く読んでいることがうかがえる。選んだ理由や意見を見ると,「日本は少子化なので保育園の問題がないと思っていた(アメリカ,女子)」とか,「沖縄の在日米軍がたびたび事件を起こすが,なぜまた起こるのか,日本政府は日米関係を重視するため解決できないのでは(中国,男子)」など新たな発見があり,考えが深まっている様子が表れている。 今の学生たちは,日常的にスマホを使ってネットに接続し,ニュースなどの情報を得ている。速報性が利点であるが,ヘッドラインは新聞に比べて少ない上に,情報の選択が恣意的になりやすい。知ってほしいのは,新聞に限らず,ネットやテレビなど,それぞれの媒体の特徴を知り,意識的に複数の媒体から情報を得るのが重要だということである。 問題点として,語彙,特に漢語は非漢字圏学習者にとって高いハードルになっている。授業中に日本人学生ボランティアに学習の支援をしてもらっているが,うまく機能しているとはいえない。もう一つは,毎学期受講者が多いので,教師が個々の学生の学習活動を充分サポートできていないことである。充実した学習活動ができるクラス設計が望まれる。参考文献内田安伊子・内田紀子(2008)『構成・特徴・分野から学ぶ新聞の読解』スリーエーネットワーク(くさの むねこ,早稲田大学日本語教育研究センター)早稲田日本語教育実践研究 第5号/2017/177―178 1783.今後の課題

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