早稲田日本語教育実践研究 第5号
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明治から戦後初期明治時代の作品。当時の文化風俗を知る(以下『金閣寺』まで同様の理由を有す)。近代文学成立に寄与した文豪の作品を読み,近代以前と以降の日本語の違いを知る。大正時代の作品。日本人初ノーベル文学賞受賞作家の作品を,受賞した理由と共に見る。物語の構造を確認する。昭和初期の作品。童話を読み,童話的な要素や,オノマトペの特徴や役割に気を付ける。昭和中期の作品。一人称小説の特徴を知る。主人公の主観的な視点で描かれた作品を読む。内面の吐露を中心に進む作品の心理描写に注意する。戦前〜戦後の作品。社会的事件を基に書かれた小説を読む。抽象的な表現の意味を探る。海外で圧倒的な人気を誇り,現在最もノーベル文学賞に近いとされる現代作家の作品。独特の比喩表現や登場人物の対比に気付く。海外でも評価の高い現代作家の作品。日本語の平易さと国を超えて共感される心理描写を楽しむ。自伝。平易な表現で書かれた実体験。年とともに成長する主人公の変化を追う。現代日本の社会問題を反映させた小説。いじめ問題や日本社会の閉塞感を感じとる。青春恋愛小説。連続する会話から話し手を見つける。複数の登場人物による語りからなる複数視点の作品。登場人物の役割による語り方の違いに気付く。(くまだ みちこ,早稲田大学日本語教育研究センター)作品選択の主な理由 学習者の興味・関心,作品の独自性に加え,近現代小説を少しでも概観できるよう,「2.クラスの教材選択基準」の①〜③を考慮して決定した。2015 年選択作品が表 1 である。表 1 クラスで採り上げた作品と選択理由(* 授業取り扱い順不同)作家(発表年)『作品』 夏目漱石(1905)『吾輩は猫である』川端康成(1926)『伊豆の踊子』宮沢賢治(1934)『銀河鉄道の夜』太宰治(1948)『人間失格』三島由紀夫(1956)『金閣寺』村上春樹(1987)『ノルウェイの森』吉本ばなな(1987) 『キッチン』乙武洋匡(1998)『五体不満足』村上龍(2000)『希望の国のエクソダス』東野圭吾(2000)『予知夢』 推理小説。推理小説を読む際のポイントを押さえる。片山恭一(2001)『世界の中心で愛を叫ぶ』湊かなえ(2008)『告白』 学期終了アンケートでは,学習者の満足度評点に大きな変化はなかったが,「いろいろな作品を読めて良かった」「日本の小説がだいたいわかった」等,作品の幅広さへのコメントや,「一人でも読めそうな気がする」等,今後への自信を記したコメントが見られた。早稲田日本語教育実践研究 第5号/2017/175―176 1763.選択作品

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