早稲田日本語教育実践研究 第5号
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を求めると,「開ければ爺さんになってしまう玉手箱を渡して『困ったことがあったら,これを開けなさい』と言う乙姫は性格が悪すぎる。」「何も悪いことをしていない太郎が最後になぜ不幸になるのか,納得がいかない。」「教訓が読み取れない。」など酷評が相次いだ。彼らは B の方が話として分かりやすいと言う。みんなでその理由について話し合い,「決して蓋を開けないでください」という乙姫の忠告に従わなかった太郎が,最後にその報いを受けたと考えれば,筋の通る話だということになった。A に比べれば B は構成もしっかりしているし,教訓も読み取りやすいというわけだ。 「開けるな」というタブーを犯した結果,突然老化してしまう B タイプの「浦島太郎」のモチーフは,「タブーの侵犯」である。そこで,「浦島太郎」のつぎに,「タブーの侵犯」をモチーフとした,②「うぐいす長者」を参考として紹介し,速読した。四つ目の蔵を開けるなという禁を破ったばかりに,うぐいすが変身していた家族も立派な屋敷も失ってしまう男の話である。このモチーフは,⑩の「鶴の恩返し」へとつながっていく。 出席率・授業への参加度という平常点のほかに,4 回の宿題が主な評価の対象である。①,③,⑧について,それぞれ指定したテキストの要約文を 200 字程度で書く宿題と,⑥について意見文を 400 字程度にまとめる宿題を出した。要約文は返却時に,筆者作成の見本と,よく書けた添削済みの数名の学生の要約文,要約文中の文法上の誤り・不適切な言葉選びなどの改善例をプリントして配付した。意見文については,添削・返却後,それをもとに,各自にスピーチをさせた。 昔話のテキストを読み比べることで,一つのテキストだけでは見えないものが見えてくるようになり,ある程度,深い読みができるようになったのではないかと思う。参考までに,「学生授業アンケート」の自由記述欄に記載された学生たちの感想を紹介しておく。 ・いろいろな昔話を読み比べて非常に面白い。 ・日本の昔話の意味を知った。 ・日本の昔話を多様な物語の形式で知ることができた。 ・要約が上達した。 ・日本の昔話に対しての理解を深めた。 ・日本語と日本文化も習ったので役立った。 ・昔話の内容について話し合ったのがよかった。 ・日本の地方文化も学べた。 ・紹介された昔話のテーマは似ていた。 ・他の有名な昔話も読んでみたい。 最後の二つの感想は,もっともな指摘である。「隣の爺型」の話が⑥,⑦,⑧と 3 回続いたので,これをもっと短くして,他の昔話を取り上げるなどの工夫が必要だろう。今後は,速読用の話と,ていねいに読み込む話とをバランスよく取り入れて,充実した授業内容にしてゆきたい。(せんば じゅんこ,早稲田大学日本語教育研究センター)早稲田日本語教育実践研究 第5号/2017/173―174 1744.評価5.おわりに

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