仙波 純子【実践紹介】早稲田日本語教育実践研究 第 5 号 科目名:日本の昔話を読む 5―6 レベル:初級 1・2 /中級 3・4・ 5 /上級 6 ・7・8 履修者数:35 名 授業で昔話を扱う場合,できるだけ多くの作品に触れさせようとすると,一つ一つの作品の印象が薄れ,ただの紹介になりかねない。そこで,このクラスでは,一つの昔話について,複数のテキストを読み比べるという試みを実践している。その実際の取り組みを報告したい。 つぎの 10 篇を取り上げた。このうち,②,④,⑦,⑨は,それぞれ一種類のテキストを速読し,それ以外の 6 篇は,すべて数種のテキストを読み比べた。 ①浦島太郎,②うぐいす長者,③かちかち山,④文福茶釜,⑤舌切雀,⑥花咲じじい,⑦おむすびころりん,⑧瘤取り爺さん,⑨猿蟹合戦,⑩鶴の恩返し なお,⑥,⑦,⑧は,いずれも善良な爺さんと,その真似をする隣の爺さんが登場し,両者が対比される「隣の爺型」の話である。そこで,これら三つの昔話は,一つのグループとして,互いの共通点,相違点についても考えてみた。て読むように指導した。その結果,学生たちはいくつかの相違点に気付いた。太郎の家族構成,子供たちから苛められた亀を救う場面,竜宮城へ招待される経緯,竜宮城での滞在中に地上で流れていた年月の長さなどである。時間の経過は,A では「何十年」であるのに対し,B では「七百年」である。学生たちは,B の方が衝撃的であり,事実を知った太郎がショックのあまり,玉手箱を開けてしまうのも無理はないと感想を述べていた。 だが,A と B の一番大きな違いは,故郷に帰りたいと告げた太郎に,乙姫が土産として玉手箱を手渡す場面である。乙姫の言葉は次のようにまったく異なる。 A:村へ帰って,もし困ったことがあったら,この玉手箱を開けなさい。 B:決して蓋を開けないでください。 すでに B タイプの「浦島太郎」を翻訳で,あるいは日本語で読んだことのある学生は何人もいたが,A タイプの話はだれも読んだことがなかった。A について学生たちに意見1731.はじめに2.教材3.読み比べの実例 : ①浦島太郎 A,B 二つのテキストを読み比べ,二つ目の B を読むときは,A とどこが違うか注意し昔話を読み比べて気づくこと
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