早稲田日本語教育実践研究 第5号
174/272

注早稲田日本語教育実践研究 第5号/2017/161―170  ここまで,「ワークブック」の練習問題の具体例とそれぞれのねらいを解説してきた。本教材では,少なくとも 8 種類の方法で漢字の学習に取り組むことができる。それらの学習のプロセスをよく考えてみると,学習者は学習のなかで,イラストから漢字を想起したり,前後の文脈から漢字(語)や文の意味を類推したり,また,音声と文字情報を結び付けたりと,さまざまな力を活用していることが分かる。本教材は,さまざまな能力を総合的に活用しながら問題解決をすることを助けている。そのため,漢字学習を主眼としながらも,漢字以外のさまざまな力を伸ばす場においても,学習の役に立つと考えられる。 例えば,聴解力を育成したいという場合は,音声のついている練習問題が,日本語能力試験の対策をしたい場合は,対策問題が役立つだろう。担当のクラスで,話し合いの時間を設けたいという場合は,産出問題の内容を話し合いのテーマにすることが可能である。 「買うより借りたほうがいいと思うものは何ですか。」「あなたはどのぐらい自分で料理をしますか。ときどき店で買いますか。」など,ディスカッションやインタビュー活動のテーマにもなり得る。すこし大きいプロジェクトのような活動を考える場合は,図 13 にあるような,好きな季節とその理由を聞くというアンケート活動を行うことも可能である。 漢字学習というと,読み練習と書き練習を多く提出し,学習方法は単調になりがちである。しかし,漢字学習には,多様なアプローチが可能である。本教材を使用することで,学習者がさまざまな力と漢字を結びつけながら,日本語の表記と音,用法を学び,語の理解を広げ,それぞれの表現の幅を広げることを期待する。  1) 初級漢字とは,以前公開されていた日本語能力試験の旧 3 級(現在の N4)相当の 300 字のことを指す。国際交流基金・日本国際教育協会編(2006)『日本語能力試験出題基準[改訂版]』(凡人社)を参考にした。  2) 漢字の字源については,白川静(2003)『常用字解』(平凡社)を参照した。そこに書かれている字形の成り立ちが難しい場合や,現在使われている字形とかけ離れている場合は,ボイクマン・渡辺ほかが,既刊の漢字教材のストーリーと重ならないような形でオリジナルのストーリーを創作した。  3) 初級日本語の語彙,文型は,スリーエーネットワーク編(2012)『みんなのにほんご 初級Ⅰ 第 2 版 本冊』(スリーエーネットワーク),スリーエーネットワーク編(2013)『みんなのにほんご 初級Ⅱ 第 2 版 本冊』(スリーエーネットワーク)で扱われているか否かという基準で判断した。引用文献ボイクマン総子・渡辺陽子・倉持和菜(2008)『ストーリーで覚える漢字 300 英語・インドネシア語・タイ語・ベトナム語版』高橋秀雄(監修)くろしお出版ボイクマン総子・渡辺陽子・倉持和菜(2008)『ストーリーで覚える漢字 300 英語・韓国語・ポルトガル語・スペイン語訳版』高橋秀雄(監修)くろしお出版岩崎陽子・古賀裕基(2015)『ストーリーで覚える漢字 300 ワークブック』くろしお出版(いわさき ようこ,元早稲田大学日本語教育研究センター)(こが ひろき,早稲田大学日本語教育研究センター)1704.おわりに

元のページ  ../index.html#174

このブックを見る