早稲田日本語教育実践研究 第5号
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らは,外国人留学生からの視点が描かれる。また,トムの日本人の友人の父親が務める職場の人間関係も描かれている。それによって,ビジネスの場面や,就労または国際結婚により日本に移住した女性の生活なども描くことができた。登場人物間の会話や一人ひとりの心の声,日記等に多くの漢字(語)が出てくるため,文脈の中での語の使用を学ぶことができる。③漢字と音声との一致を図る 多様な練習問題には,聴解を取り入れた問題もある。内容は,主にキャラクターによる会話や独話である。実際の音声と正しい表記を選ぶことで,音と表記の正確なマッチングを図る。同時に,漢字を発音する際の助けとなることも期待される。ほかの漢字教材にはあまり見られない本教材のユニークな特徴のひとつである。④自分のことを書き表す 読解や聴解だけでは,学習が受け身で終わってしまうため,まとめ問題には産出問題を用意した。学んだ漢字(語)を用いて,学習者が自分のことを表現する機会を持てる。⑤日本語能力試験対策 日本語能力試験の対策として模擬問題を多く載せている。300 字の漢字を用いた漢字語のほとんどを N5,N4 の各レベルにおいて練習問題として提出した。試験対策としても,大いに活用できる。2-3.「ワークブック」の対象 上述のとおり,文脈を意識した「ワークブック」には,まとまった文章が多く出てくる。そのため,それらの問題を解くには,ある程度の語彙の力も不可欠である。本文中の語彙,文型はすべて初級日本語 3)の範囲で収め,それ以外のものには対訳をつけている。「ワークブック」は 2016 年 9 月の時点で 4 言語に対応しており,英語,インドネシア語,タイ語,ベトナム語の訳がついている。「メイン教材」はゼロビギナーでも使用可能なのに対して,「ワークブック」は初級の日本語の基礎力を備えた学習者を対象としている。 また,「メイン教材」「ワークブック」は,いずれも教室利用,自習利用の両方が可能であり,モジュール式に(どの回からでも)利用できる。ただし,前の回までに出てくる漢字や漢字語は,既習とみなし,基本的にルビは振っていない。さて,次章では,「ワークブック」に載せられている練習問題の具体例とそれぞれのねらいを見ていく。 本章では「ワークブック」の具体的な練習問題を紹介する。練習問題は①〔概念〕,②〔字形〕,③〔読み〕,④〔書き〕,⑤〔書き取り〕,⑥〔読解〕,⑦〔産出〕,⑧〔日本語能力試験対策〕の 8 つにカテゴライズされる。順に具体例とともにねらいを解説する。①〔概念〕 概念によって漢字を整理する問題である。漢字の字形と概念をイラストにより結び付けたり,同義,類義,あるいは反義的な概念で複数の漢字を整理したりする。また,既習の163岩崎陽子・古賀裕基/『ストーリーで覚える漢字300ワークブック』紹介3.練習問題の紹介

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