早稲田日本語教育実践研究 第5号
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岩崎 陽子・古賀 裕基 【ショート・ノート】早稲田日本語教育実践研究 第 5 号   キーワード:初級漢字,概念,文脈,音声,産出 筆者らは 2015 年 6 月に『ストーリーで覚える漢字 300 ワークブック』(以下,「ワークブック」)を刊行した。このワークブックは,『ストーリーで覚える漢字 300』(以下,「メイン教材」)に準拠した練習問題集である。漢字の練習問題というと,従来から国語教育で使用するドリルに見られるような「書き練習」「読み練習」の反復問題が多く,単調になりがちである。しかし,漢字学習には多様なアプローチが可能だと筆者らは考え,漢字を概念で整理する問題や,音声を聞いて正しい表記を選ぶ問題,漢字語を用いて自分のことを表現する問題など,さまざまな練習問題を作成した。加えて,日本語能力試験対策の練習問題も用意した。本稿では,「ワークブック」の位置づけ,特徴,練習問題の例,そして,それぞれの練習問題のねらいを具体的に紹介したい。本教材が広く使われることで,漢字教育の一助となれば幸いである。2-1.「メイン教材」から「ワークブック」へ 「メイン教材」は,ボイクマン総子,本稿筆者の一人である岩崎(渡辺)陽子,その他が,初級漢字 300 字 1)を「楽に楽しく学ぶ」という理念に基づいて 2008 年に出版した。その理念の実現のために,300 の漢字をかわいらしいイラストと,その字形の成り立ちを説明するストーリーで導入し,漢字一つひとつの概念(中心義)の定着を図っている。ストーリーは,分かりやすいものなら,漢字の字源に基づくものを使用し,そうでない場合は,オリジナルのストーリーをあてた 2)。 例えば,図 1 にあるように,「土」の漢字の場合は,上の「十」の部分を十字架に見立てて,「十字架を立てるのは土(soil)の上です」と説明している。太字部分が,漢字の中心義である。次に出てくる「王」は,既出の「十」の説明を利用しながら,土の上に王様が乗っているイラストを提示し,「土地を支配するのは王(king)です。」と説明した。できるだけ学習者にとって理解しやすいようにと,ストーリーの本文は英語・韓国語・ポルトガル語・スペイン語の対訳を用意した。その後,アジアの学習者を対象に,英語・インドネシア語・タイ語・ベトナム語の 4 か国語を載せた版も刊行した。161―多様な形式による練習問題の提示―1.はじめに2.『ストーリーで覚える漢字 300』の概要と「ワークブック」の位置づけ『ストーリーで覚える漢字 300 ワークブック』紹介

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