早稲田日本語教育実践研究 第5号
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注三好裕子/語彙リストの暗記のみの語彙学習からの転換を促す語彙の問題作成く,教師にも語彙の学習と指導についての気づきを起こすものであることがわかった。 一方,検討すべき点の指摘もあった。次の 4 点にまとめられる。①授業での時間の配分が難しく,他の指導ができなくなることがあった。②授業で理解できていたのに後のクイズで間違えていた。記憶に残す工夫が必要である。③この問題だけでは,使えるところまでは行けないので,そのための指導が必要である。④語彙学習についての気づきを起こすところまでなので,続きの指導が必要である。 アンケート等の結果から,狙いとしていた気づきは,ある程度起こすことができたことがわかった。学生および教師の評価も好意的であった。客観的な効果の測定はできていないものの,学習方法の転換のための気づきと,教科書の語句の十分な理解という目的は,ある程度達成できたといえるのではないかと思われる。 今後は,引き続き現場で使用しながら改善を図り,より良いものにしていきたいと考えている。検討,改善すべき点としては,6 で教師が検討すべき点として挙げた 4 点が,それに当たる。4 点のいずれもが大きな課題であるが,語彙の学習方法を身に付けさせるという本来の目的を考えれば,④の点は特に重要である。初中級というレベルでは,学生自身が日本語のコーパスから必要な情報を得ることは困難であり,かつ,現状ではこのレベルの学生に必要な情報が過不足なく入った辞書もない。そのため,例えば,辞書の記述の見方を教えるなど,この状況の中で学生が必要な情報を得るための指導が必要であり,その指導について検討していかなければならないであろう。 また,教師が適切に導けば学生による活発な仮説検証が起こる一方で,「説明を聞いてもわからないことがある」という意見が多く,説明の難しさが明らかになった。問題のみでなく,問題を使っていかに教えるかが重要であり,その検討が必要だと思われる。  1)連語は統一した定義がない。本稿では,複数の語が連なり一つの意味を表すものとする。  2) a,b のうち正しい文の選択問題にした課もあったが,その形式では一方の文の正誤がわかればもう一方の正誤もわかるため,1 文ずつ正誤を答えさせる形式に固定した。  3)NINJAL-LWP for TWC http://nlt.tsukuba.lagoinst.info/  4)日本語版を作成し,それを翻訳して英語版,中国語簡体字版,中国語繁体字版を作った。  5) 一要因の分散分析を行い,F (2,284)=13.700 p<.01 で有意差が認められた。各問題間の平均値の差の検定では,全ての問題間において,5%水準で有意であった。参考文献今井むつみ・佐治伸郎(2010)「外国語学習研究への認知心理学の貢献―語意と語彙の学習の本質をめぐって」市川伸一(編)『発達と学習』北大路書房,283-309三好裕子(2011)「共起表現による日本語中級動詞の指導方法の検討―動詞と共起する語のカテゴリー化を促す指導の有効性とその検証―」『日本語教育』150 号,101-115三好裕子(2012)「共起語のカテゴリー化による日本語中級動詞の指導―クラスにおける試行的実践―」『留学生教育』17 号,141-1501597.まとめと今後の課題

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