早稲田日本語教育実践研究 第5号
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回に 20 分程度しか時間が取れないため,問題の分量は 1 課につき A4 1 枚程度にした。 問題形式は,気づかせたい点を次の 3 点に絞り,それに適したものを考えた。 ① 日本語の語と訳語との間の意味のずれが存在する場合があること ② どのような語が共起するかに注目すべきこと ③ 動詞を学習する際には,助詞に注目し,一緒に覚えるようにすべきこと ①は,訳語から学生が正誤の判断を誤る可能性のある文を示すことで気づかせることができると考えられる。そこで,①の気づきのための問題形式として,文の正誤判断 2)を選択した。そして,学生が取り組みやすい形式であることから,これを問題 1 とした。 ②については,三好(2011)において動詞と共起する語に注目させ,どのような語が共起するのか,そのカテゴリーを考えさせる指導の有効性が確認されている。また,共起する語について考えさせることで活発な授業実践が可能であったことも報告されている(三好,2012)。そこで,動詞と共起する語を選択させ,そのカテゴリーを考えさせる問題とすることにし,問題 2 とした。 ③については,学習項目と注目すべき点を明確に示すという意味で,動詞に下線を引き,助詞を( )にした空所補充問題とし,問題 3 にした。 本稿末の資料に,例として第 7 課の「ことばの使い方の問題」を掲載した。3-2.問題の作成過程1)問題 1 文の正誤判断問題 問題 1 の中心的な狙いは,日本語の語と訳語との意味のずれに気づかせることである。意味のずれがある語は,教科書の語彙リストの訳語を見て,反対にその訳語の日本語訳を調べることや,訳語の例文を調べることで,見つけることができる。そのような語で,このレベルに適しており,使えるようにする価値があると思われる語を出題語とした。 また,この形式は,類義語との使い分けや語が使用される文体など,様々な項目について出題することが可能である。そのため,他の形式で出題するのが難しい項目は,問題 1で出題した。さらに,「あいづちを打つ」のようなコロケーションについても,問題 1 で出題した。コロケーションの場合は共起する語が一つに決まってしまう(例:「あいづち」に対する「打つ」)ので,問題 2 の形式には相応しくないためである。 問題文の作成にあたっては,出題項目の理解を促すため,正しい場合と正しくない場合の違いが明確に理解できるような文を考えた。2)問題 2 共起する語句の選択問題 問題 2 は,三好(2011)の CA 法の考え方に基づくものである。CA 法とは,例えば「失う」が{命 / 家族 / 財産}と共起することを示せば,「失う」は「“非常に大切なもの”をなくす」という意味があると気付くように,動詞と共起する名詞のカテゴリーを考えさせることで,動詞の意味および動詞と共起する語がわかるようになるというものである。そこで,動詞を出題語とし,共起する名詞を選ぶ問題とした。ただし,たとえば「増やす」の問題で「本」を選択肢にすると「本を増やす」となり,これだけでは状況がわかりにくいため「図書館の本」を選択肢にするというように,場合により,名詞 1 語ではな153三好裕子/語彙リストの暗記のみの語彙学習からの転換を促す語彙の問題作成

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