学習だとすることには,次のような問題がある。 第一に,語彙学習とは語彙リストにある日本語の語と訳語を覚えることだと思っている学習者は,それぞれの意味の範囲にずれがあることに気づかず,互いに 1 対 1 で対応していると錯覚することが多い。意味の範囲のずれに気付かなかった場合,誤用や語の使い残し(その語が使えることに気づかないこと)を起こす可能性がある。1 対 1 対応していると錯覚することが,外国語の語彙学習における最大の問題だという指摘もある(今井・佐治,2010)。第二に,語の意味を覚えただけで,語がどのような形で,どのような語とともに使われるのかといった語の使い方を知らなければ,語を適切に使えないという問題がある。第三に,語彙リストの暗記による語彙学習は,1 語 1 語をばらばらに覚えることになり,効率的でないという問題もある。そして,第四に,暗記という学習方法は,通常単調で,努力を強いられ,面白さを感じにくいという問題もある。 学生がこのように問題の多い学習方法で学んでいる状態を改善するため,教科書の「新しいことば」の問題として作成したのが,本稿の「ことばの使い方の問題」である。 なお,教科書の「新しいことば」の語句は,連語 1)を含んでいるが,それらの連語は「横になる」「目が覚める」など,一般にコロケーションと呼ばれる,語と語が結びついて一つの意味を表し,他の語と置き換えることができない固定的な連語であり,1 語のように学習すべきものである。そこで,以下では,これらも語として扱うことにする。 「ことばの使い方の問題」は,語彙リストを暗記するのが語彙学習だと考えている学生たちに,その方法の問題に気付かせ,その学習方法からの転換を促すため,次の 3 点を狙いとすることにした。1) 日本語の語と訳語には意味のずれがあることがあり,訳語を覚えただけでは適切に使えないことに気づかせる。2) 共起する語や助詞,語が使用される際の語の形など,語彙を学習する際に注目すべき点に気づかせる。3) どんな時使え,どんな時使えないかを考えることで,語の意味や使い方がわかることと,その面白さに気付かせる。 ただし,教科書を用いて指導する総合クラスでは,教科書の中の語が身につくようにすることも重要であり,それらの語を指導し,理解を図る必要がある。そこで,「ことばの使い方の問題」は,教科書の「新しいことば」の中で,上記の狙いに合い,かつ,指導する価値があると思われる語を出題語とした。そして,それらの語の理解を図ると同時に,上記の気づきを起こすことを目的とすることにした。3-1.「ことばの使い方の問題」の概要 総合 3 のスケジュールには 1 課ごとに語彙指導の時間が設けられているが,問題には 1152早稲田日本語教育実践研究 第5号/2017/151―1602.「ことばの使い方の問題」の目的3.問題の作成
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