三好 裕子【ショート・ノート】早稲田日本語教育実践研究 第 5 号 初級で一般的な語彙学習の方法は,語彙リストにある日本語の語と訳語を 1 対 1 対応で覚えるというものである。語彙をこの方法のみで学習することには多くの問題があるが,現状では語彙の学習方法は学習者任せで,指導がほとんど行われていないため,中級以降もこの学習方法を続ける学習者が少なくない。そこで,初級から中級へと移行するレベルの総合クラスにおいて,教科書の新出語の理解を図るとともに,語彙リストの暗記のみの学習方法からの転換を促すことを狙いとした語彙の問題「ことばの使い方の問題」を作成し,授業でその指導を行った。 キーワード:語彙の学習方法,語彙の問題,初中級,気づき,総合クラス1-1.背景 言語によるコミュニケーションにおける語彙知識の重要性は言うまでもないが,外国語教育において語彙は覚えるしかないものとされ,学習者の努力に任されることが多い。初級での語彙学習の方法として一般的なのは,学習している語の語形とその訳語の対を覚える方法である。実際,早稲田大学日本語教育研究センターの初級クラスである総合日本語1,2 でも,語彙のクイズは教科書の解説書にある語彙リストを覚えれば解答できる問題になっており,語彙リストを覚えることが語彙学習のほぼ全てになっていると思われる。 本稿の実践の対象である総合日本語 3(以下,総合 3 とする)は,総合教科書『中級へ行こう日本語の文型と表現 59』を中心に学習する,初中級レベルのクラスである。教科書の巻末には,「新しいことば」として,新出の語句が英語・中国語・韓国語の対訳を付して並べられたリストが付いており,課ごとの「語句クイズ」で語句の意味を問う問題が出るため,学生はそれを覚えてくることになっている。学生には「語句予習ノート」という冊子を渡してあり,語句の意味だけでなく,その語句を使った短文を作って書くよう指示しているが,実際には,短文を書いてくる学生は限られており,リストで語句の意味を覚えてくるだけの学生が多かった。つまり,多くの学生にとって語彙学習は,授業で説明を聞く以外,語彙リストを覚えるのがほとんど全てという状態であった。1-2.語彙リストの暗記のみの語彙学習の問題 語彙学習には確かに暗記に頼らざるを得ない面があるが,語彙リストの暗記のみが語彙151―初中級レベルの総合クラスでの実践報告―要旨1.はじめに語彙リストの暗記のみの語彙学習からの転換を促す語彙の問題作成
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