音に強い関心を持ち続け,自分に合った方法で学習し続けた日本語学習者ほど,習得度が高いという戸田(2006)の報告からも,自分に合った学習方法を選べるような教材を開発することは,大きな貢献になると考えた。 今回の報告では,発音という 1 つの技能に特化した学習を扱っているが,他の技能における Web 教材の開発にも応用可能であると考え,本稿に留意点などを書き留めておくことにする。 まず,自律学習(Autonomy)とは何かについて整理する。研究者によってさまざまな見解があるが,Holec(1981)は,自律学習を「自分自身の学習を管理する能力」と捉えている。ここでは,Holec のいう学習の管理を,具体的に述べた「学習の目的,目標,内容,順序,リソースとその利用法,ペース,場所,評価方法を自分で選べる」(青木・中する)といった PDS の学習プロセスを自分の意志で決めて実行し,管理することだと考える。 では,この自律性を促進させるために,どのような支援を行ったらよいのだろうか。この点について,参考になったのは,デシ・フラスト(2012)の内発的動機に関する記述で,「ある程度の裁量が許されていれば,一人の独自性をもった人間として扱われなかった人よりも,その活動により熱心に取り組み,より楽しむ」という部分である。これを学習にひきつけて考えると,自らの学習を選択,設計することで,自分の行動の意味を見出すことができ,自律学習につながる,と捉えられる。これは,先の戸田(2006)の結果とつながるところである。 しかし,ただ選択肢を与えるだけでは十分ではなく,発音に関する基本的な知識に関する情報提供は欠かせない。戸田(2006)による学習成功者の一連のプロジェクトの結果から,発音の習得度の高い学習者は,発音に関する授業の履修経験があり,自分の発音の特徴や傾向について言語化できるほど,日本語の発音に関する知識や自身の発音をメタ的に捉えていた学習者であることがわかっている。発音に関する基本的な知識は,発音を練習する際に,意識を向けるポイントの理解にもつながる。そこで,Web 教材では,基本的な音声項目の知識,発音上のポイントに関する情報を提供することにした。 さらに,See(判断・評価する)の段階で,自分の発音評価を学習者自身ができるよう,音声分析ソフト Praat を用いた確認方法を動画で紹介している。自律学習という表現からすべての学習過程を学習者自身がすべきだと考えてしまいがちだが,必ずしも個人で行う必要はなく,状況に応じて利用可能な学習の人的リソースは有効に使うことも可能であろう。 以上の通り,自律学習を促進させるために,PDS サイクルを軸に,評価を含め,各段階で選択肢を設けること,日本語の発音に関する基礎知識を提供することを考えた。142早稲田日本語教育実践研究 第5号/2017/141―1502.自律学習を促進させるために田 2011)こと,すなわち,Plan(学習計画を立てる),Do(実行する),See(判断・評価
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