注トンプソン美恵子/長期的なキャリア形成を視野に入れた日本語教育考えた幸福論を改めて考えるものも多くあった。「キャロルさんは正しいことをして,それは多分彼女の「幸せ」だろう。私はアリストテレスのニコマコス倫理学を勉強しました。「幸福」と「善」は必ず関係があります(アリストテレスの引用を省略)。4年も哲学を勉強したが,まだ自分の幸福論が分かりません。でもだんだん気付いたことは倫理を違反した幸福はないと思います。(20 代後半 CJL 生・シンガポール)」 第 13 回では,第六次産業を展開する「もくもく手作りファーム」経営者(木村修・吉田修)を群像とし,「食」を通じてグローバル化社会を変える生き方を考えた。カンブリア宮殿(テレビ東京)を視聴後,群像の「4 つの問い」に対する答えを想像し,自分たちの答えを改めて読んだ。ふり返りでは,「第六次産業になると農家などの生産者が作ったものを自ら製品に加工し,価格の設定し,販売まで行い,より大きな利益得ることができるようになった。一方で,モクモクファームを作った人がもともとビジネスの知識がある程度持っていたので,会社の設立ができたが,農業しかやらない人だと,結構難しいと思う。(20 代後半 CJL 生・ベラルーシ)」など,新たなビジネスの形に魅力を感じつつも,実現可能性を批判的に吟味し,自身の選択肢として思案している様子がうかがえた。 グローバル化社会で新たな生き方を追求する群像を第 11 〜 13 回で見た後,第 14 回では事前課題でそのような群像を一人調べ,各受講生がポスター発表を行った。ふり返りでは,「私はお肉を食べることがやめられないと思いますが,(クラスメートの)○○さんのようにお肉の量を減らしたいと思います。27年間この地球に暮らし,私の手にも動物の血がいっぱいついています。(20 代後半 CJL 生・ドイツ)」「アイディアがあれば,とりあえずやってみた方がいいと思います。(中略)最近家でネギを植えようと考えています。いつもスーパで145円の長ネギを買いますが,自分が植えるネギはどんな味ですかと気になります。(20 代後半 CJL 生・シンガポール)」など,大きな行動ではないが,まずは自分にできることから始めたい,という未来に対する行動の記述が多く見られた。 第 15 回の総合ふり返りでは,就職の内定を得た受講生がそこでの働き方を思案する,就職活動を控えた受講生が自分の価値観に引きつけた企業を探すなど,受講生自身の人生とリンクさせ,グローバル化社会で生きる展望を具体的に見出しているのがうかがえた。 本稿では,「4 つの問い」に対する答えや語彙などの言語学習には触れることができなかった。受講生の認識に対する縦断的分析および継続調査とともに,今後の課題としたい。 1) 高度外国人材の定義は定まっていないが,高度人材受入推進会議(内閣府,2009)では,日本の産業にイノベーションをもたらし,専門的・技術的な労働市場の発展を促しながら,日本の労働市場の効率性を高められる優秀な人材と定義されている。日本経済団体連合会(2015)が企業に行ったアンケート調査によると,グローバル事業で活躍できる人材に必要な資質・能力として「海外との社会・文化,価値観の差に興味・関心を持ち,柔軟に対応する姿勢」「既成概念にとらわれず,チャレンジ精神を持ち続ける」「英語をはじめ外国語によるコミュニケーション能力」の順に企業が評価するという。これらをまとめると,1394.おわりに
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