早稲田日本語教育実践研究 第5号
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5) 事前課題で考えたこと,疑問に感じたことを改めて考えてください。新たなこと,気づいたことなどを書き,シートの蓄積はポートフォリオとしてまとめていく。そして,一連の学習サイクルが可視化されたポートフォリオを見ながら,授業の最終回に総合的ふり返りを行う。こうして,事前課題・授業での議論・ふり返りの学習サイクルの中で,受講生は自分が過去に培った知識や経験を確認しながら,新たな知識や多様な意見・視点を取り込み,将来グローバル化社会でいかに生きていくための展望を見出す。3-3-2.段階的な問い 思考の深化を促すために,事前課題や授業の議論では,段階的な問いを提示した。例として,第 4 回「グローバル化社会で働く(1)」で提示した問いを表 1 に示す。まず,事前課題で留学生 30 万人計画骨子に目を通し,受講生の意見や想起される自分または知人の経験を問うことで,留学生 30 万人計画に関する情報を受講生の経験と結びつけ,彼らが政策を身近に感じるよう促す。授業では,留学生 30 万人計画の影響を受けて来日し,日本で高度外国人材としての就職を目指す人々,その家族や関係者などの事例を紹介し,それぞれの立場から見る留学生 30 万人計画の現実を考察するための問いを提示する。このように,受講生自身や具体的な群像と関連付けながらグローバル化社会を考える段階的な問いを設定し,グローバル化社会に生きる当事者として諸問題に向き合うことを促す。事前課題文部科学省による留学生 30 万人計画骨子を読み;1)考えたこと,気づいたことや思い出した自分・知人の経験,2)疑問に思ったこと,もっと知りたいと思ったことなどを書いてください。授業の議論 1) 日本で就職したい留学生やその家族は,留学生 30 万人計画をどう考えるでしょ2) 留学生を雇用する企業は,留学生 30 万人計画をどう考えるでしょうか。3) (ドキュメンタリー視聴後)日本で就職活動に苦しむ大学院留学生の陳さんに4) 香港で娘を案じる陳さんのお母さん,就職支援会社の浅井さんはどうでしょ3-3-3.4 つの問い 3­2 で挙げた授業目標の達成を促すために,持続可能性日本語教育の根幹をなす「4 つの問い」(岡崎,2009)を受講生に提示し,数回その答えを問い,共有と検討を行う。また,15 回分授業の全体的な流れや各回の授業計画を練る際,「4 つの問い」の観点を参考にしている。「4 つの問い」を以下に示す。① 世界認識:グローバル化社会はどうなっているか② 行動基準:そこでどのように生きていくか③ 人間関係:②のためにどのような人間関係を作っていくか④ 自己アイデンティティ:そのように生き,人間関係を作る私とは何か 「4 つの問い」に答えることは,グローバル化社会の現状を把握し,他者とよりよい関134早稲田日本語教育実践研究 第5号/2017/131―140表 1 第 4 回授業で提示した問いうか共感したこと,聞いてみたいと思ったことを挙げてください。うか。気づきや疑問はあるでしょうか。

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