のため「総合日本語 5」の履修後,「総合日本語 6」を履修した場合,似通ったテーマでレポートを執筆するか,レポートのテーマ選択肢が狭まってしまうことになる。また,調査Ⅰの「読むこと」で指摘されているように,「さまざまな話題について書かれた文章の読解(社会的な話題以外)」が求められたことも,同一の主教材の使用が要因の一つと考えられる。さらに,両科目はシラバスの構成も類似点が多い。具体的には,授業の流れとして,語句の予習クイズ,文型・表現の学習,本文読解,当該の社会問題についてのディスカッション等,教材の各課の構成面からも類似性が高いと考えられる。調査Ⅰの「文法・語彙・表現」セクションでは,表現の幅を広げるような内容が求められており,両科目の重なりを解消する意味でも,テーマの分散化による語彙のバラエティーや,表現の多様性が求められていると言えよう。 「総合日本語 5」および「総合日本語 6」では,授業内で学習者同士が話し合う時間を設けている。しかし,調査Ⅰの 「話すこと」 にあるように,どのように話すのかについて,授業内で扱っておらず,学習者からの要望が高くなったと考えられる。また,発表の機会も設けられているが,十分なアカデミック・プレゼンテーション・スキルは扱っていない。限られた時間数の中ですべてを扱うのは困難であるが,両科目の履修者が中上級・上級前半レベルとなり,場面に応じた話し方ができることへの渇望が窺える。 聴解に関しては,主教材に CD が付属しておらず,また,シラバスに聴解の時間を設けていなかったことから,調査Ⅰおよび調査Ⅱにおいて,聴解への要望が上がったと推察される。学習者は大学の学部や大学院の授業で,日本語で行われている授業に参加する機会もある。こうしたことから,教師やクラスメート以外の日本語を聴く機会を設けることは学習者にとって有意義であろう。また,主教材で社会問題を扱うことから,関連したニュースを聴く活動を取り入れることも視野に入れることができる。 このように学習者の振り返りから,「総合日本語 5」および「総合日本語 6」の授業内容の重なり,アカデミックな表現技法の習得や聴解の時間の確保など,課題が浮かび上がった。反面,時間を多くかけているレポート活動については,調査Ⅱでも役に立ったこととしてレポートが挙げられている。限られた時間数の中で,学習者からの要望をすべて叶えることはもちろんできないが,総合科目群の科目として四技能をバランスよく学習できるということを掲げているのなら,四技能のバランスと共に,「総合日本語 5」と「総合日本語 6」の重なりの解消を検討すべきであろう。 調査で明らかとなった主な問題点は,四技能のバランスの偏り,および両科目双方の内容の重なりである。これら問題点については,調査後から現在に至るまで改善に努めてきた。現在,「総合日本語 5」および「総合日本語 6」の両科目とも,聴解と個人発表の時間を設けている。但し,両科目の内容の重なりの元となっている主教材に関しては,見直しを含め検討中である。 今後も四技能のバランスに留意しつつ,「総合日本語 5」および「総合日本語 6」が,よりよい科目となるよう考えていきたい。120早稲田日本語教育実践研究 第5号/2017/113―1216.現在の状況と今後の課題
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