上田潤子/名前とアイデンティティ た。弟は小学 1 年生からインターナショナルスクールに通った。インターナショナルスクールといっても子どもはほとんどが日本人で,授業以外は日本語で話していたという。 スイスでもカナダでも,心から打ち解けられる友だちは日本人だったという。カナダのプライベートスクールには 30 ヵ国もの子どもがいたが,いつも一緒にいるグループというと国ごとに分かれていて,G も週末に遊ぶのは日本人のグループだった。G: 弟はスイスのときは一緒のインターナショナルスクールに行ってたんすけど,カナダに行ってから公立に行きはじめたんで。あんまし公立は関係ないっすね。んが考えて,彼にはこっちのほうがいいだろうって思ってってこと?G: そうですね。基本的に僕はずっと私立だったんで,今さら公立行かして大丈夫かって感じで心配されてて(笑)。情けないんですけど。まあ,弟のほうはけっこうマインドが外人で自分の言いたいことは言えるし強く主張できる子だったんで,公立行っても大丈夫だろうってことで公立に行ったんですけど。 カナダへ行ってからは,両親が子どもたちの性格等を考慮し,G には私立,弟には公立,と学校を選んだという。弟が「自分の言いたいことは言えるし強く主張できる子」だったのに対し,公立学校ではやっていけないだろうと見做された自分を「情けないんですけど」と言っている。G: いえ,あの,そもそもカナダの大学に行こうと思ってたんすよ。それでカウンセラーの方が早稲田の帰国子女枠があるけどどうする,みたいなことを言われて,じゃ,それ受けてみます,って。 (中略)どっちも「帰る」?G: カナダは基本的に行ってましたけど,夏休みとか祖父とか祖母を訪ねるときに行ってた感じの記憶しかないんで,それから 2 年間ぐらいしか住んでないんで,自分の家っていうと日本のほうですね。 日本では,小さい頃から祖母の家も従兄の家も近く,よく一緒に遊んでいた。従兄の家は現在住んでいる祖母の家の隣にある。従兄は今 20 歳で,よく話したり会ったりしている,という。G: はい,実際考え方が日本人なんで。それこそアイデンティティがもうでき上がってるんで。たぶん弟にそういうの聞くと「カナダ人」って言うと思うんですけど。I : でも弟さんは違ってたってことね?I : 弟は違う学校に行ってたっていうのは,それは自分の考えなの?お父さんお母さI : 早稲田に行く,日本にまた大学は行くって決めたのは自分で決めたの?I : 日本に「帰る」ってさっきから言ってたもんね。カナダは「行く」って感じ?I : 「あなたは何人ですか」って聞かれたら「日本人です」って感じなんだ。109
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