早稲田日本語教育実践研究 第5号
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早稲田日本語教育実践研究 第5号/2017/93―112 I : じゃ,名前だけでちょっとアジア人っぽいって思うんじゃない?せん。ちょっと悲しいんですが。 (中略)C: でも苗字が[フランス姓]だから,とてもフランスっぽいんです(笑)。だからいつもみんなは「あ,ハーフですか?」とか。 書類上の名前は[フランス名 1][日本名][フランス名 2] …… [フランス姓]と長いものだが,普段は[日本名]のみを使っているという。その[日本名]が兄が選んだ名前だというエピソードには,C を家族みんなで迎え入れようとする両親の配慮が伺える。日本好きの両親がきれいな漢字も選んでくれている。C は[日本名]の漢字も気に入っており,パスポートに漢字の記載がないことを「ちょっと悲しいんですが」と語っている。一方,[フランス姓]は非常にフランスらしい響きがするため,[日本名][フランス姓]と名乗るだけで,アジア人とフランス人の両方のアイデンティティを表わすことになるようだ。■日本でキャリアを積みたい シンガポールの高級ホテルで 2 ヶ月間アルバイトをしたことがあり,その後,修士(経営とマーケティング)のプログラムで研修が必要であったため,フランスの同高級ホテルで 6 ヶ月間働いた。C: 本当におもしろかったです。同じ会社ですが,文化は全然違います。アジアの文化とフランスの文化。シンガポールの文化と日本の文化,アジア人としてみんなは敬語を使います。英語で敬語はないんですが,お客様は本当に大切。フランスでは,まあ(笑),サービスはちょっと違うんです。たとえば日本人の観光客がパリに来たら,ちょっとびっくりします。お店に入ったら,従業員は挨拶はしません。バックオフィスも空気がちょっと違います。 アジアの客がたくさん来るがフランス人はアジアの客がどのようなサービスを期待するのか知らない,と感じたという。C は「どうしてわからないの?」「わたしはわかるのに」と思ったという。 日本で同高級ホテルの面接を受けたが,日本語のレベルが足りなかった。メールはずっと英語でやり取りしていたため,面接が日本語で驚いたという。今後敬語を中心に日本語を学んで,再度日本のサービス業に挑戦したいと考えている。■行き着く場所は アジアとヨーロッパに精通した人材として活躍できる場を探していきたいと考えているが,最終的にどこに落ち着きたいか聞くと,それは未知のことだと言った。100

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