早稲田日本語教育実践研究 第4号
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熊田道子/時事を利用した受信から発信への過程科目名:『日本の論点』を読みながら,アカデミックリテラシーを養うレベル:初級1・2/中級3・4・5/上級6・7・8履修者数:10名弱熊田 道子早稲田日本語教育実践研究 第4号 1.クラスの概要1-1.クラスの活動本クラスは,社会問題や文化的事象等の時事問題をテーマとする論文の読みを中心に,学部等での授業を念頭におきながら様々な活動を行っている。活動の基本は,日本の社会・文化に関する現状についての知識を得,それに基づいて発信することである。具体的には以下のような活動を行っている。①論文理解の前提となる基本知識を調べる。②決められた時間内に文章を読み,内容を把握する。③読んだ内容を口頭・文章・図解等の形でまとめる。④まとめた内容を他の参加者たちに説明する。⑤わからないところを互いに説明しあう。⑥同じテーマについて書かれた他の文章を探す。⑦テーマに対する自国の現状を説明する。⑧複数の文章を比較する。⑨文章の論理的展開における問題点を見つける。⑩筆者の意見を踏まえたうえで自分の意見を述べる。クラスで取り扱う論文は,最初の数回は教師が選択し,その後は参加者が選ぶ。1-2.教材『日本の論点』1)を主教材として扱っている。理由は以下の2点である。①テーマの多様性:教材のテーマが政治・経済〜文化まで多様であるため,偏りの少ない硬軟取り混ぜたテーマを参加者が選べる。②議論しやすい論文の多さ:筆者の主張が明確であり,主観的な論文が散見されるため,参加者に批判的思考が生まれやすい。2.実践における発信への過程―批判的な読みの獲得と,「同じ」から「個」への変化クラス活動では,他の参加者や教師と協働で論文を読み,日本の社会や文化への知見を得ること,自分の意見や情報を発信できるようになること,学部等で必要とされる活動に慣れることを目的としている。参加者の変容はいくつかあるが,本稿においては受信から発信への過程において起こった,批判的な読みの獲得と「同じ」から「個」への変化について紹介する。なお,以下で述べる「気づき(気づく)」は,授業で配布した「振り返りシート」への参加者のコメントを,集約したものである。2-1.「同じ」とは何か授業の開始期に,批判的な読みに慣れていない参加者は多い。出版されたものに対して,盲目的な信頼さえ有している参加者もいる。そのため,論文への意見を求めると,筆者の意見と同じだという回答が多く出る。「筆者の意見と本当に全て同じなのか」という問いを立て,文章を緻密に読み込んでいく作業の中で,「同じ」というのは,自分が同感する部分だけを拾い集めた「同じ」であって,歪曲した読みをしていたことに「気づく」参加【実践紹介】77時事を利用した受信から発信への過程

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