早稲田日本語教育実践研究 第4号
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早稲田日本語教育実践研究 第4号/2016/75―76深める。非言語や短く効果的な表現について学び,日本語の表現力・発信力を高める。4.授業の概要と流れ15週の活動を前半と後半に分け,大きく二つの活動を行う。前半は公共広告について学び,時代別の広告分析を通じその社会背景について考える活動,後半は日本に来て感じる問題について話し合い,自分たちで公共広告を制作する活動である。4-1.公共広告を読み取り,分析する活動・自国の公共広告事情について,情報を持ち寄り話し合う。・日本の公共広告とACジャパンについて学ぶ。・最新の公共広告を分析し,そのメッセージと背景,効果的な表現について話し合う。・1971〜2013年の公共広告を時代ごとに分析し,特徴と背景,表現について話し合う。・最も心に残った広告や広告分析全体を通して気が付いた点をレポートにまとめる。4-2.わたしたちの公共広告制作の活動・広告の構成・シナリオ・絵コンテ・撮影・編集の仕方について学ぶ。・日本に来て感じる問題や伝えたいことについて話し合う。・制作する広告のテーマを決め,グループを作る。広告全体のイメージを考える。・広告制作計画を立て,役割分担をする。メッセージ発信のための表現を検討する。・撮影・編集をして,広告を完成する。・広告作品発表会(コンテスト)を行い,お互いの作品を評価する。作品DVDの配布。5.実践の成果と課題一口に日本の問題と言っても変わりゆく問題,変わらずに続く問題があり,他国と共通する問題もあれば,違う問題もある。発信の仕方も40年前の直接的表現に比べ,現在はより隠喩的に変化した等,クラスの議論の中で様々な気づきが見られた。また,各時代の公共広告に埋め込まれた社会問題を縦断的に分析すると同時に,発信されたメッセージを様々な立場や視点から丁寧に読み解いていく中で,今までは「日本」の特徴だと疑いもなく結論づけていた現象が,実は世の中の動きや流れ,個々の立場や状況に左右されながら,必然的に生み出された一時的かつ一面的なものにすぎないかもしれないと感じ取った学生も多かった。この活動が目の前の「日本」の現象を,時間的空間的な因果関係を含んだ立体的な視点によって捉え直す一つのきっかけになったと思われる。さらに,広告制作の経験によって,広告やその表現をより注意深く見ようとする態度も培われたようであった。今後は,クラスの規模を活かしつつ,一人ひとりが自分の考えを十分に述べ,議論できる場を確保することで,学生がより主体的に「日本」を考えられる環境を作っていきたい。(もりもと けいこ,早稲田大学日本語教育研究センター)76

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