森元桂子/「日本」を立体的かつ主体的な視点で捉えるために科目名:公共広告から日本を考えるレベル:初級1・2/中級3・4・5/上級6・7・8履修者数:30〜35名森元 桂子早稲田日本語教育実践研究 第4号 1.開講の経緯―気になっていた二つの言葉2015年度春学期に本科目を開講する端緒となったのは,学生たちがよく口にする二つの言葉であった。一つは「僕たちは,日本に日本語だけを学びに来ている存在ではなく,様々な専門や経験,考えを持った一人の大人だ。」というものである。これは,とりわけ日本語科目を専ら履修するプログラムの学生から聞くことが多く,ともすれば学生を日本語学習者という側面からのみ捉えがちな教師の態度に猛省を促すものであった。彼らの日本語力を向上させることは当然重要であるが,日本に興味を持って来た学生が,一人の大人としてなんらかの手がかりをきっかけに,自身の知識や経験を駆使しながら,日本の社会を主体的に捉え,真剣に語り合える場が必要だと思われた。もう一つは「私は日本の文化と日本人の考え方が大好きだ。」という言葉である。学生たちが何の躊躇もなくそう話す場面に遭遇する度に,「日本」を単純化・固定化して捉える見方に一石を投じ,「日本」とは何かを改めて問い直す契機が作れないだろうかと考えた。このような思いを具現化し,「日本」を時間的にも空間的にも幅広い視野から見つめ直すことのできる機会を設けたいと考え,新科目を考案することにした。2.公共広告を題材として筆者は以前,他機関で「公共マナー」等をテーマとするCM制作を通じた教育に携わった経験から,マスメディアに囲まれて育った世代は,そこから発せられるメッセージに敏感であるという実感を持っていた。また,「公共広告」は社会啓発の理念を持つ広告であり,発信されるメッセージの意味を分析・理解することによって,その広告が作られた社会背景や問題意識が考察できることから,学生たちが「日本」を考える上で,有効な手がかりになりうると考えた。さらに,短い広告の中には,厳選された言語/非言語の表現が凝縮されているため,日本語を含めた表現を学ぶ教材としても相応しいと言える。以上のことから,「公共広告」を活動の題材として選択するに至った。3.授業の目的公共広告の表現を分析する力を身につけ,そこに込められたメッセージを読み取る。広告の背景や問題意識について考察し,現代日本の問題や社会についての理解と関心を【実践紹介】75「日本」を立体的かつ主体的な視点で捉えるために―公共広告の分析・考察と広告制作の実践―
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