高橋聡/社会・文化を「私と他者」を通して捉えなおす科目名:母国と日本の新聞,歴史教科書をよみ比べるレベル:初級1・2/中級3・4・5/上級6・7・8履修者数:9名高橋 聡早稲田日本語教育実践研究 第4号 1.何をめざすかひとつのできごとは,さまざまな視点から見ることで,その姿が変わる。わたしたちはその異なるいくつかの姿を重ね合わせる作業を通して,自分の考えを捉えなおし,そのできごとから何かを学ぶことができる。このクラスでは,自分の最も興味のある社会的な「できごと」をひとつ選び,母国と日本の新聞,或いは歴史の教科書をよみ比べることで,自分にとってこの「できごと」はどのような意味があるのかという視点から,社会的な問題を自分の問題として捉えなおしていくものである。言語教育は,他者(異なるもの)との出会いを進めていく行為であり,その他者と共に幸福に生きていく自己をどのように拡張・更新していけるのか,試み続けるものだと思う。教室参加者と共有したクラスの目的は以下の通りである。・ある「できごと」についての異なる見方・考え方を経験し,それらがつくられる背景(社会・文化)を考えることを通して,当然とされた前提を問いなおす。・その「できごと」と自分との関わりをもとに,今,ここでの自分の「できごと」として「できごと」を捉えなおす。・上記のさまざまな言語活動を通して,それぞれのLIFE(命・人生・生活)にとって大切な「自分のことば」(見方・考え方)をクラスの関係の中で育てる。2.「できごと」と「私」社会的な問題を自分の問題として捉えなおしていくためには,「なぜ,私はこの「できごと」に興味をもつのだろう」という問いが大切になる。さまざまに異なる見方,考え方を通して自分の考え方を再構築していくために,「できごと」と「私」との関わりがその支えになっていくからである。その問いを考え続けることで,この「できごと」を通して自分は何をわかろうとしているのかが形となり,無数にあるメディアや資料の選択,クラスでのディスカッションや私にとっての「できごと」の方向を示すコンパスになっていく。クラスでは,最初の数週間をかけて,「できごと」の決定となぜこの「できごと」なのかをまとめた動機文を作成し,クラス参加者で読み合い,問題意識(テーマ)を形にしながら,教室参加者と共有していく。その後,「問題意識(テーマ)」をもとに,自国,日本の資料を調査・発表し,話し合いを行い,それを通して自分にとってこの「できごと」はどのような意味があったのかをもとにレポートにまとめていく。【実践紹介】73社会・文化を「私と他者」を通して捉えなおす―共に生きることばをめざして―
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