早稲田日本語教育実践研究 第4号
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早稲田日本語教育実践研究 第4号/2016/71―72監督・発表年など小津安二郎・1949オリエンテーション:約70年前の父娘と,現代の父娘の会話場面を鑑賞し,親子間のことばの使い方・特に若い女性のことばの時代による差異を確認し,その変化の社会的要因を考える。錦織良成・2010職場のことば:航空会社の上司・部下,先輩・後輩,同僚間,接客などでどのような話体,ことばが選ばれているかを観察・分析する。家庭内のことば:夫婦のことばの世代差,親子間のことば,家庭内の丁寧体決定の要因などを考える。学校のことば:教師のことばのバリエーション,中学生と先生・親,中学生どうしの話体やことばの選択について観察・分析する。中島哲也・2010若者のことば・女性のことば:新語・サブカル用語・IT系のジャーゴンについて,観察・分析する。また,複数の若い女性のことばの比較,『ハッピー・フライト』とは違う業種の職場のことば比較などを行う。大根仁・2011新海誠・2013(アニメーション)若者のことば・女性のことば:恋愛関係にある男女のことば,家庭内での兄弟のことばなどを観察・分析する。60年前のことばと現代のことばを比較する:若い男女間の会話,若い女性のことば,教師のことば,家族間のことばなどについて現代の映画と比較しながら分析する。大島渚・19594.成果と課題外国人学習者に限らず,日本人話者も含め「上司には正しく敬語を使って話すべきだ」「女性は女性らしく「わ」「のよ」「かしら」や敬語形式を使いこなすべきだ」という思い込みは現実によってもなかなか是正されず,自由な表現を束縛している面がある。学生たちは,映画で実際のセリフの運用を観察することにより,実はこれらが思い込みにすぎず,きちんと丁寧体で話しさえすれば上司にも敬語はほとんど使われていないことや,いわゆる女性文末形式が若い女性にはほとんど見られないと知り,はじめて現実を振り返り納得する。もちろん,「映画でのことばの使い方は自分のアルバイト先の職場とは全然違う」というような認識をもって討論に加わる学生もいる。このような目で日本語を見ることも,これはこれで一つの成果である。映画,現実,それにこれまで学習し経験した自分の知識を重ねて討論し考えることにより,より深い日本語への認識や運用力が育つものと考える。課題は,文化的視点や言語的な描き方において現代社会を表すような質の高い映画作品を選ぶことにつきる。そのうえで,さらに分析の視野を広げ,視点を深めていきたい。授業概要(こばやし みえこ,早稲田大学日本語教育研究センター)表2 映画教材と授業概要映画題名晩春 (部分)レイルウェイズ-49歳で電車の運転士になった男の物語(部分)ハッピー・フライト矢口史靖・2008歩いても,歩いても是枝裕和・2008告白モテキ(クラスで選んだ映画)言の葉の庭(クラスで選んだ映画)愛と希望の街72

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