早稲田日本語教育実践研究 第4号
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て1本の映画の鑑賞と分析を行い,15回の授業で5本の映画を扱う。小林美恵子/映画を楽しみながら,日本語について考える科目名:映画を通して考える日本の社会とことばレベル:初級1・2/中級3・4・5/上級6・7・8履修者数:25〜35名表1 授業の流れ1時間目導入(または前時のまとめ)と映画の前半鑑賞映画の後半鑑賞。台本を配布し,ことば観察の着目点を確認のうえ,小レポートを課す。(提出締切はコース@Naviにより,授業と授業の中間日に設定し,提出されたものについては,次時に添削・批評して返却する)2時間目3時間目提出されたレポートにもとづく学生の発表,討論,まとめ小林 美恵子早稲田日本語教育実践研究 第4号 1.授業のねらい日常生活には,教科書で学ぶ日本語とは話体も丁寧度も使用される語彙も異なるさまざまな日本語があふれている。相手や場面に応じたさまざまな日本語のバリエーションが存在する。本授業を受講する学生は,比較的日本語レベルが高く,日常生活における意思疎通という面ではほとんど問題はないが,彼らにとってもこのバリエーションの選択・運用はなかなか容易なことではない。海外にも流通する日本のサブカルチャーから覚えたことばや言い回しをむやみに使い,周囲を鼻白ませるものもいる一方,場面や相手に合わせた丁寧体から普通体への移行にさえ戸惑い悩む学生もいる。本授業では,現代の日本社会を描いた劇映画を題材として,場面や人間関係と,そこで使われる日本語の話体や語彙などを観察・分析し,さまざまな日本語のバリエーションとその運用の様相を理解する。さらに取捨選択も含め,そのようなバリエーションに対する自らの態度や運用力を身につけ,日本語話者としての見識を養うことをねらいとする。2.授業のすすめかた映画は全編を見ることを原則とし,以下,表1の流れにしたがって,3授業時間を使っ3.教材としての映画と授業内容映画のセリフは現実そのものではなく,役割語的なものであったり,整理もされている。しかし,観客が見て,少なくとも不自然には思わず受け入れられるものとして,日本語のバリエーションの一様相を示しているとは言えよう。また,できるかぎりそのような映画を教材として取り上げたい。そこで,過去10年くらいの間に作られた,現代の首都圏を舞台とする,特異ではない登場人物・人物関係を描くドラマで,学生にも親しみやすい作品ということで教材を選んでいる。また,学期後半では,「クラスで選んだ映画」として,学生の希望による作品選定も行う。表2に今までに取り上げた作品例と授業の概要を示す。【実践紹介】71映画を楽しみながら,日本語について考える

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