早稲田日本語教育実践研究 第4号/2016/69―70のKさんの「日本の刀」をテーマとしたワークショップに参加させていただいている。鉄,冶金技術の特徴や,武器ならびに工芸品としての日本刀について学び,さらに「元さや,反りが合わない,つばぜり合い,トンチンカン」といった刀から生まれた日本の言葉の意味についても学ぶ貴重な機会となっている(図1参照)。(おさだ のりこ,早稲田大学日本語教育研究センター)実物の刀に触れるなどの体験を通して,日本の70その結果,学生はその場所自体の様相にとどまらず,日本の社会や文化についてより深い発見ができるようになる。以下は,実際に学生達が選んだテーマの数例である。谷中銀座―「工芸文化の保存と地域おこし」「野良猫との共存」国会議事堂―「日本と台湾の議会制度の違い」「日本国憲法〜第9条の解釈」浜離宮庭園―「日本の伝統的な庭園と西洋の庭園」「日本の茶道と韓国の茶道ブーム」皇居―「天皇制を廃止すべきか」「天皇の後継者問題」ジブリ美術館―「スタジオジブリとディズニー作品の相違」「ジブリ作品の女性像」東京地方裁判所―「死刑制度の是非」「日本の裁判員制度」4.学生の気づき,学び学生たちは1&2章で述べたように,多様な角度から訪問先に関する知識を得たり考えたりした後,実際に訪問する。訪問先は6か所だが,クラス全員の発表を聞くので,自分で調べたことに加え,様々な気づきや学びが生まれる。日本の社会,文化のみならず,日本との比較で自国の社会,文化についてもより深い理解に至る場合もある。さらに,「死刑制度は必要か」など,人として生きる上での普遍的な課題についての気づきや学びも生まれる。5.日本武道具ブドウショップ毎学期,最初の訪問は池袋の「日本武道具ブドウショップ」という店に設定し,オーナーこれは当クラスのために開かれるもので,学生たちは実に多くのことを学ばせていただいている。6.今後の課題学生たちは毎学期,よく努力し,興味深いレポートを書いている。しかし,中にはインターネットの情報のつなぎ合わせのみでまとめたり,大学生としては物足りないテーマを選ぶ者もいる。授業を通してより深い学びに導くことができるよう,さらに工夫を重ねたい。図1 日本武道具ブドウショップ前で
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