早稲田日本語教育実践研究 第4号
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早稲田日本語教育実践研究 第4号/2016/67―68(もりした まさこ,早稲田大学日本語教育研究センター)その他の目的として,以下のことが挙げられる。①日本の伝統文化を学ぶことは,自国の文化を,そして自らを見つめ直すことでもある。本授業を契機に自分や級友の国の伝統文化にも目を向け,異文化の相互理解を深めてもらう。②自分が興味を持っていることを調べて発表したり,ボランティアや他の学生とディスカッションしたり,内省したレポートを書いたりすることにより,知識を広げ,実践的な日本語の力をつけてもらう。③大学内や同世代の人達だけではなく,誇りを持ってその道一筋に精進している様々な分野のプロであるゲストの先生方と触れ合うことにより,人生に必要な多くのことを吸収してもらう。3.評価の方法本授業は,出席・参加度(授業やディスカッションにどれだけ真剣に取り組んでいるか),体験ごとのレポート(知識編4枚,実践編7枚。内容の質と期限内での提出)によって評価している。知識編はその他に発表と最終レポートがある。4.人と人をつなぐ学習環境のデザイン筆者が目指しているのは,授業に参加している全員にメリットをもたらす,ウィンウィンのネットワークを構築することである。学生にメリットがあるのはもちろん,ゲストの先生方にとっても,たとえば若手の芸人などには早稲田大学で教えたということがある種の履歴になるし,すでに第一線で活躍している方にとっては,留学生を通して世界に自分の素晴らしい文化を伝えられるという利点がある。さらに地域の人材センターや社会人のゲストの方々には,若い学生と触れ合い共に学ぶ楽しさや,自分の背景を生かして役に立てるという喜びがあり,学生ボランティアには留学生と同様に学んでもらえる。このように,授業を一つの共同体と捉え,留学生をはじめとするその参加者を様々なネットワークにつなげてあげること,そして創発的な学びが起きるための仕掛けやリソースを用意し,それぞれが生き生きと活動できる居場所を作ってあげることが,教師の役割ではないかと考える。多くのゲストの先生やボランティアのスカウト・調整,授業までの御膳立て,準備,後始末,材料やチケットの手配・集金等の一連の仕事は,学生の人数が多いこともあって大変な労力である。それは学生には見えないかもしれない。だが,教師がファシリテーターに徹するからこそ,留学生が主体となる授業が実現できるのではないだろうか。そしてこれらのネットワークは,筆者にとっても大切な財産であることは間違いない。68

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