早稲田日本語教育実践研究 第4号/2016/65―66(かわち ちはる,早稲田大学日本語教育研究センター)例2 96ページのト書き*祐二,D−1に座る。好恵,D−3に座る。祐二と好恵は夫婦である。D1とD3は席の位置を示している。つまりD2の席が空いている。ある学生から「なぜ夫婦なのに隣の席に座らないのですか。仲が悪いのですか」という質問が出た。台詞には書かれていないが,ト書きを読みその通りに身体を動かしてみて気づいたのである。実は授業では扱わない部分の台詞からこの二人が離婚寸前であることがわかる。仲の悪い夫婦が肩を寄せて座らないという状況は世界共通であろう。例3 96〜97ページの会話(上段・下段と分かれているが,並べて表示)登喜子 あれ,今日は?好恵 うちの方に。登喜子 あぁ,あれ,じゃあ,幼稚園休ませたの?好恵 えぇ。慎也 なんか,すいませんでしたね。わざわざ。慎也と登喜子は夫婦,好恵は慎也の弟祐二の妻である。幼稚園に通っている3才の子供がある。教師が「うち」とはどういう意味か質問すると,「祐二と好恵と子供が住んでいるところ」と答える学生が多い。「好恵も祐二もここにいるのに,子供が一人で家にいるのですか」と聞くと,「誰かといっしょに…」「では,どうして幼稚園を休んだのですか」「う〜ん」しばらくして,ある学生が「あっ,おばあちゃんの家!」と言うと,他の学生たちも「ああ,そうか」「幼稚園を休んで,おばあちゃんの家に行ったんだ」と理解する。実は子供がどこにいるのかは書かれていない。しかし,安心して子供を預けられるところといえば,やはり妻の実家ではないかと思われる。学生たちと話し合ってみると,親が外出するときに子供を実家に預けるということは日本だけではないことがわかる。3.まとめ日本語クラスにおける「社会・文化」とは日本固有のものでないといけないのだろうか。上の3つの例を見ると,現代の日本人の生活の中に日本固有の社会・文化というものがあるのだろうかと考えてしまう。日本の戯曲を読むことで学生それぞれが日本人の生活を知り,自分自身が持っている社会・文化との共通点と相違点を意識してみることができればよいのではないだろうか。66
元のページ ../index.html#70