早稲田日本語教育実践研究 第4号
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河内千春/日本の戯曲に見られる社会・文化科目名:戯曲を読むレベル:初級1・2/中級3・4・5/上級6・7・8履修者数:20〜30名河内 千春早稲田日本語教育実践研究 第4号 1.はじめに戯曲とは演劇の台本のことである。台本は映画にもテレビドラマにもあるが,戯曲と呼ばれるのは演劇の台本だけのようであり,文学作品の一つでもある。「戯曲を読む」というクラスを作ったきっかけは,私自身が演劇に関わっていることもあり,学生たちに日本の演劇について少しでも触れてほしいと思ったからである。また,日本人のための日本語で書かれているので教科書の会話より自然な日本語会話表現を知ることもできる。クラスでは演劇として上演するのではないので,台詞を覚えてしまう必要はない。書いてある文字を小さい声で読んで内容を確認するのではなく大きい声で読む。相手との人間関係を把握し,相手の台詞に反応して自分の台詞を読む。ト書きにも注目する。以上のようなことを目指している。クラスの流れとしては,一つの戯曲(全体ではないが)の内容を理解させ,役を決めて何度か読む練習を行い,リーディング発表会を行う。また,作者や作品について,自分が読んでみて気づいたことについてレポートを書き発表する。学期中にこれを2回行う。2.社会・文化的な気づき平田オリザの『東京ノート』(早川演劇文庫)の中から例をあげて述べてみたい。例1 14〜15ページの会話(本来は縦書きであるが,横書きに変更)木下 お,野坂 思ってたより,たくさんあるね。木下 うん。野坂 ちょっと,疲れちゃった。木下 うん。木下は男性,野坂は女性,恋人同士である。ここを読むと,「男のほうが言葉が少ない」と皆笑い,「これが日本人の男の話し方なのですね」と納得する。たしかに,木下という男性は口数が少ないという設定になっているが,日本人の男性全てが木下と同じではないだろう。日本では言葉で説明しなくても思ったことが伝わるという場合が多いかもしれない。【実践紹介】65日本の戯曲に見られる社会・文化―「戯曲を読む」クラス実践からの気づき―

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