早稲田日本語教育実践研究 第4号
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早稲田日本語教育実践研究 第4号/2016/55―59c. 学習目標として取り上げられる語彙や構文を,談話の流れの中で理解し経験する4.初級クラスにおけるボイストレーニングの活用法場である。しかし,教師の声が,小さくて聞き取りにくかったり,明瞭でない場合,学習者はティーチャートークによるインプットのチャンスを十分に活用できない可能性がある。つまり,ティーチャートーク以前に,その基となる教師の発声方法も,インプットに大きく関わってくると推察される。そこで筆者は,教師が明瞭なティーチャートークをするためには,ボイストレーニングの必要性があると考える。4-1.ボイストレーニングとは現在,ボイストレーニングという言葉を耳にしたことがある人は多いと予測できるが,実際にどんなことをしているのか,知らない人も多いと思う。ボイストレーニングとは,一言でいえば,声や話し方をよくするためのトレーニングである。ボイストレーニングは,日本語教育の世界では,まだまだ認知度は低いと思われるが,実際には,日本語教師にとって,非常に有効なスキルであると考える。もともと声が小さい教師が,頑張って大きい声を出そうと,声を張り上げたりすると,喉に負担がかかってしまう。また,大きな声を張り上げると,聞く側も疲れてしまう可能性がある。このようなときにも,ボイストレーニングで習得した方法で発声すると,教師は喉を傷めず,学習者に,響く声で,きれいなモデルを聞かせることができる。現在,国際交流基金の日本語パートナーズの事前研修プログラムでも,ボイストレーニングが行われている。本稿では,筆者が,教室活動で行っているボイストレーニングの活用法について,述べる。4-2.初級日本語クラスでのボイストレーニングの活用法日本語は音声面で,母語転移の問題もあるが,特殊拍のように母語を問わず習得困難なものもある(戸田2003:70, 2007:39)。初級の場合は,まだ学習者が日本語に慣れていないため,できるだけ,滑舌良く聞きやすいモデルが必要である。そのため,筆者はいつも,入念にボイストレーニングを行っている。そうすることで,喉を傷めず,学習者にとって心地よいと思われるであろう声で発話することができる。聞きやすい声で授業をするということは,日本語教師にとって重要な要素である。また,戸田(2008:78)は,発音の学習成功者に見られる共通点として,発音に対する意識化がされていることを挙げている。筆者は,学習者自身も,教室活動で,明瞭に発声することを意識することは,日本語学習上,有効であると考える。そこで,授業の際,学習者に簡単にボイストレーニングの理論を基にした,発声のアドバイスを行っている。本稿では,授業前に行っている筆者自身のボイストレーニングや,また,ボイストレーニングの理念を活用した学習者に対する発声指導について,紹介する。56

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