佐野香織・太田亜樹子・高千叶・東雅江/学習支援者が経験したETP30ラーニング・コモンズン担当者の学習観は,研修員は「おとな」であるから自己決定学習の力があるという無意識の思い込みによるものであった。しかし,プログラム自体のあり方が学習の効率性・短期的な即効果を求めている場合,研修員の学びのあり方も「すぐに分かるように教えてほしい」「できないからできるようにしてほしい」という方向に向かう可能性がある。イントロダクトリー期の初期では見られた「学び合い」の形やアドバイザーに依存しない学びの形がすぐに見られなくなった理由はここにあるのではないだろうか。学びの目指すところ,それに応じたアドバイザーの役割を,もっと細かく計画・実施・変更していけるよう,継続的な活動を考えて行く必要がある。長期的に向き合う仕組みの設計もあわせて考えていきたい。ラーニング・コモンズを今回のように1プログラム内で行う場合,プログラムの方向性や参加者の学びのあり方と連動することは,強みにもなるが逆に参加者のニーズに依存してしまった場合は弱みにもなる可能性もある。設計・運営をする場合,この点を配慮する必要があるだろう。6-2.「空間」オープンな雰囲気で学び合いができる空間,一人の学びにも対応する空間を作り多様な学びの設計を目指したが,「アドバイザーと研修員1対1」に対応する空間配慮は足りなかった。同じ空間にプライベートな空間を作るのか,異なる空間のほうが良かったのか,または,同じ空間でも仕切りなどで対応するのか工夫をする必要があったと思う。この空間配慮から,どのようにプライベートな場所を使うのか,使用の仕組みも工夫できただろう。また「ラーニング・コモンズ」実施時間外に「ラーニング・コモンズ」の部屋を使って研修員が仲間と昼食をとったり,休憩をしたりする姿が見られた。その際の「おしゃべり」や「楽しみ」が学びにつながることは十分考えられる。例えば,ビジネスパーソンである研修員のキャリアにつながることや,旅や生活の情報の共有,写真掲示など,研修員だけではなくアドバイザーや教員とも学びあう空間を目指すこともできる。アドバイザーが「アドバイザーとしてもっと何かできたのではないか」「積極的に関われたのではないか」と感じたことも,こうしたゆるやかな空間の使い方で様々な可能性を拡げて考えることができたかもしれない。6-3.「共同体」研修員全員のための空間として「ラーニング・コモンズ」を設計したが,一部の研修員による固定的な利用にとどまっていた。ETPの研修員はプログラムの学習も含め様々なことを行っているため,時間的制約があることは否めない。しかしカリキュラムに束縛された「個」の学びに限定されない「ラーニング・コモンズ」として,独自のイベントや活動を行うことにより「学び合うコミュニティ」が生まれ継続する可能性もあっただろう。また,今回のふりかえりで,設計・コーディネーション担当者とアドバイザーの間においても当初のイメージや情報の共有やプロセスにおけるアドバイザーの役割観の共有の難しさが分かった。研修員に限定されたものではなく,アドバイザー,教員も含めた「学び合うコミュニティ」を考えることも重要であろう。最後に,本稿は学習支援者のふりかえりを元にまとめたものであるが,参加した研修員53
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