早稲田日本語教育実践研究 第4号
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佐野香織・太田亜樹子・高千叶・東雅江/学習支援者が経験したETP30ラーニング・コモンズ「ETP30ラーニング・コモンズ」は,厳密な意味でのラーニング・コモンズではない。ETPという一つのコースを背景にした「研修員の学習環境を整え,学習をサポートする4.「ラーニング・コモンズ」実施概要創造に変えていく空間です。さまざまなヒト・モノ・コト・情報と出会い,それらを仲間とともに議論し展開していくことで,新しい学びの可能性を生み出していきます」(同志社大学図書館ホームページ)というように「学び」の可能性の場としているもの,また,ラーニング・コモンズの重要な要素として学習支援を挙げているものも多い。前年度ETP29期未習者レベルクラスでは,「学び方が分からない」という研修員の声に,「学習ストラテジー」ワークショップを教員のファシリテーションで行ったことがあった。その際の「学び合い」の姿に,こうした研修員の「学習コミュニティ」ができるような「場」の必要性を感じていた。この経験から,学び合いも可能にし,なおかつ個々の多様な学びに応えられるような学習環境のイメージとしてラーニング・コモンズの概念が浮上した。ために,ETP30期に設置された学習支援空間」のことである。「ラーニング・コモンズ」では,3.で述べたとおり多様な学びの形に対応できる,研修員の学習環境をサポートするための空間を目指した。また,「教える」立場ではなく,学びのコミュニティの一員として,学びの交通整理役として,アドバイザーを配することとした。常勤インストラクターの担当者が「ラーニング・コモンズ」を設計した当初,アドバイザーの役割として次のようなことを考えていた。①日本語サポート:授業時に分からなかったことについての質問,日本での生活を通して湧いてきた疑問についてアドバイスする,自由会話など。②情報提供:研修員が求める学習リソースや,必要であろうと思われる情報の提供,学外の学びへのアクセス方法紹介。③学習アドバイジング:求める学び方へのアクセス方法紹介。ただしこれらの役割は,研修員とアドバイザー,1対1のセッションだけを想定したものではなかった。同じ疑問を共有する研修員がアドバイザーと一緒に話をしたり,一人で学習していても他の人と学びを共有したりできるような空間における役割を想定していた。「ラーニング・コモンズ」は,日本語コンポーネント授業後,ETPのイベントや他の授業に支障のない時間帯をあらかじめ選んで開催された9)。設計当初は使用目的も,「アドバイザーと相談・話をする場」と固定的に決めたものではなかったため,イントロダクトリー期開始当初は,自由に「ラーニング・コモンズ」に出入りできる雰囲気を目指していた。しかし,後述するように,時間的制約や「ラーニング・コモンズ」の利用が「アドバイザーへの質問・相談目的」のみである研修員が大半を占めるようになったため,実施形態は日本語コンポーネントの各期ごとに表1のように見直しをしながら進めた。47

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