早稲田日本語教育実践研究 第4号
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小宮千鶴子/理工系留学生のための数学の専門連語の選定専門連語   連語として専門語と別個に専門概念を表す         例)「集合に属する」「実数の集合」非専門連語  連語としては専門概念を表さない         例)「集合を考える」「実数の中」図1 専門語の連語3.数学の専門連語の選定方法としても専門概念を表す。それに対し,「集合を考える」「実数の中」などの非専門連語は,専門語を含むものの連語としては専門概念を表さない。専門連語は,専門語と一般語から成るものが多いが,「実数の集合」のように専門語のみから成るものもある。一般語には類義語があるため,「集合に属する,集合に含まれる」など類義の専門連語が存在するが,専門語のみから成る専門連語には,類義の専門連語はない。連語は自立的な単語の組み合わせで,名づけの単位である。村木(2007)は連語を「自立的な単語のくみあわせで,命名(名づけ,現実のさししめし)の側面のみをになった文法的単位」と規定している。連語が名づけの単位であるならば,専門連語は専門語と同様に専門概念を表す単位といえる。専門語が社会的に与えられたものであるのに対し,専門連語は専門的な文章や談話の作成過程で言語主体の必要性に応じてその都度作られるものであり,専門語よりも柔軟に言語主体の必要性に応じることができる。ただ,「細胞が分裂する」「細胞の分裂」などの専門連語が専門語の「細胞分裂」と比べてあまり専門概念を表すと感じられないのは,専門連語が専門概念を表す単位として専門語ほど確立していない(確立すれば専門語になる)ためであろう。連語は単語使用の最小単位(宮島2005)であることから,専門語の連語は専門語の用法を示す最小単位といえるが,中でも専門概念を表す専門連語は,専門分野の学習者にとって覚える価値のある有意義な用法といえる。専門連語は,専門家にとっては空気のような存在で専門語ほど意識されないが,日本語教育にとっては,専門語の運用や語構成などの学習に役立ち,日本語学習と専門学習とをつなぐ重要な単位である。本研究では,「理工系留学生のための数学の専門語」173語について,小宮(2006a)と同じ高校数学教科書の本文を資料に,高校卒業程度の数学の専門連語を選定した。専門語の連語は,特定の専門語と直接的な係り受け関係にある2語とし9),専門連語の選定の手順は,次のとおりである。手順1.資料の数学教科書の本文を入力し,それに日本語係り受け解析器の“CaboCha”をかけて構文分析を行い10),係り受け関係にある2文節の組み合わせ(連語)をすべて取り出した。次にそれらから「理工系留学生のための数学の専門語」を含む連語を取り出した。手順2.手順1で得た「専門語の連語」から,「その関数」「集合と呼ぶ」など連語として29

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