早稲田日本語教育実践研究 第4号
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早稲田日本語教育実践研究 第4号/2016/25―44Olivera and Arribas-Baño, 2008:139; Kageura, 2007)。ては,「価格」「細胞」「直線」など中学程度の用語の一部しか学んでいない(小宮2014)。学部留学生を教える大学教員は,大学入学時点で留学生が専攻分野に関する高校卒業程度の専門語を習得していることを求めている(札野・辻村2006)が,現状ではその期待に応えるのは困難である。そのため,留学生は大学入学後に学部教育の前提となる高校卒業程度の専門語と大学で新たに学習する専門語とを同時に学ばなければならず,専門語学習の負担が重い(西谷2001,古本他2006)。留学生が学部入学前に自身の日本語レベルに合った日本語による高校程度の数学や経済などの講義を受けることができれば,日本語による講義にも慣れ,その中で高校卒業程度の専門語を学ぶことも可能であろう。しかし,そのような講義を受けられる留学生は,限られている1)。では,そのような講義を受けられない多くの留学生に対して,日本語教育の立場からどのような指導や学習支援が行えるだろうか。日本人学部生の専門語学習は,専門教育を通じて行われ,留学生の場合も同様であるべきだが,留学生には高校卒業程度の専門語彙の不足や日本語による専門学習の経験不足という問題があり,それらをどう改善するかが課題である。専門語には多義語や類義語を嫌い,意味が文脈に左右されず,国際性が高い(国立国語研究所1981:10)などの特徴がある。専門語が専門分野で表す専門概念は,非専門家には難解なことが多いが,その概念が既知であれば,概念を橋渡しとする中間言語を利用した学習法(仁科1997a:62)によって訳語の提示のみで専門語の学習が可能である。留学生は母国などで高校教育を受けており,各国のカリキュラムには違いがあるものの2),高校卒業程度の専門語が表す概念は習得している。そのため,日本語教師がそれらを教える場合は,語形の指導が中心となり,専門概念の指導を行う必要性は低い。留学生が限られた時間の中で高校卒業程度の専門語を学ぶには,適切な学習語彙の選定と一般日本語教育と並行して行える学習方法の開発が必要である。高校卒業程度の専門語の学習語彙は,経済(岡1992,小宮1995,2007a,2014a),医学(増田他1998),環境工学(水本・池田2003),情報セキュリティ(濱田2008),化学(小宮2005a),物理(小宮2005b),数学(小宮2006a)などの分野で選定が行われている。さらに,経済分野では日本語学習と並行して専門語学習が行える学習サイト「経済のにほんご」(http://keizai-nihongo.com/)が公開されている3)。留学生が高校卒業程度の専門語を首尾よく学べたとしても,次に問題になるのは,その使い方である。一般語ならば,国語辞典などを引けば用例があり使い方がわかるが,専門語辞典には用例がない(Pearson 1998:71,影浦2010)。その背景には,専門語辞典は専門語の表す概念を説明するもので言葉の意味を説明するものではない(国立国語研究所1981:20)という考え方がある。しかし,用例のない専門語辞典は,専門分野の学習者(留学生も母語話者も)や翻訳者などにとって大問題であり,専門語辞典にも用例など使用に関する情報を載せるべきであるという意見もある(Bergenholtz & Tarp, 1995:111; Fuertes-専門語辞典を引いても専門語の使い方がわからない現状において,どうすれば専門語の使い方を学ぶことができるのだろうか。小宮(2002)は専門語の使い方を連語として捉え学習の必要なものを「専門連語」(後述)と名付けた。専門語の使い方には日本語教師に26

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