秋山麻衣耶・林亜友美/中上級の漢字学習者による学習者主体の自己分析6-1.フィードバックシートの改良学習者のアンケート結果として挙げた「何を書けばいいのか分からない」(4□1□2表1「学習者の評価②」⑧)ことに対し,今後の対策としてフィードバックシートの改良の必要性が考えられる。さらに,「書くのに時間がかかる」(4□1□2表1「学習者の評価②」⑩)という意見が出た理由として,時間的な問題もあるが,それとは別に,日本語能力の問題や誤りの理由を言語化することが得意ではない学習者がいることも考を考慮し,誤りの理由としていくつかの選択肢を挙げ,その中から選べるようにすることも,今後検討していく。授業開始時にFBシートを導入する際には,誤りの理由に対して選択肢を提示し,そこから選べるようにする。その後,FBシート記入時の学習者の様子に応じて,選択肢をなくし,記入にあたって自由記述を増やしていくといった段階に応じた指導も考えたい。6-2.「セルフ・フィードバック」によって生じた気づきや問題意識に対する働きかけ「セルフ・フィードバック」の実践は,FBシートに学習者が記述した誤りの理由に対して,その原因を考えさせ,内省を促すことに留まっていた。つまり,その先の解決策を見出すところまで至っていなかったのである。これは,筆者らが実践開始時に学習者が自分の誤りの原因が明らかになれば,自ら解決していけるだろうと推測していたからである。しかし,それでは苦手な漢字知識の偏りや間違える傾向は把握したところで,学習者の問題は解決しない。その結果,アンケート(4□1□2表1)でも「自分の苦手なことはもう分かっている」「間違いが分かっても自分の学習に影響があまりない」といった意見が出たのだろう。今後は,「セルフ・フィードバック」を行うことで漢字学習における誤りの原因が明らかになってから,さらに問題を掘り下げ,誤りの原因の解決を学習者とともに探る必要がある。参考文献秋山麻衣耶・林亜友美(2016)「中上級学習者に対する漢字学習ストラテジー―セルフ・フィードバックの活用に向けて―」『JSL漢字学習研究会誌』8号,20-24.大橋敦夫・柳浦恭(1992)「学習ストラテジーと日本語教育―学習者に対する教師の役割―」『上田女子短期大学紀要』15,107-118.岡和志・黒岩督(2002)「自己評価活動に対する外的フィードバックがメタ認知能力の形成と学習成果に及ぼす効果―漢字学習における自己評価システム導入と評価システム共有の観点から―」『日本教育心理学会発表論文集』44,518.小河原義朗(1998)「日本語学習における発音学習ストラテジーの有効性の検討」『言語科学論集』第2号,東北大学文学部日本語学科,1-12.蔭山峰子(2010)「ポートフォリオの要素を取り入れた自律学習の実践」『同志社大学日本語・日本文化研究』第8号,75-88.加納千恵子(1996)「漢字学習の方法と評価」『日本語教育方法研究会誌』3(2),16-17.加納千恵子・清水百合・竹中弘子・石井恵理子・阿久津智(2008)『INTERMEDIATE 6.今後の課題21
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