早稲田日本語教育実践研究 第4号/2016/7―235.考察が,詳細を把握することは難しかった。しかし,「セルフ・フィードバック」を行うことによって,教師も学習者の個々の誤りと継続的に向き合うことができ,個々の学習者の学びに寄り添った指導が可能となったといえるだろう。5-1.学習者が自ら気づくことの意味従来の漢字テストにおけるフィードバックは,教師が一方的に正答を提示し,学習者に自己の誤りに対する問いかけをする時間を設けていないことが多かった。本実践を通して,学習者が自己の学びの問い直しを行うことにより,問題意識が生じ,今,自分が何を必要としているのかを把握することにつながった。この過程において,学習者が自己の誤りを分析する力を養うことにより,長い目で見たときの自律学習を推し進める力になると考えられる。5-2.「書くこと」で自己の学習と向き合う本実践においてFBシートに「書く」という行為には二つの段階があった。第一段階として「書く」という行為によって,自己の誤りが可視化され,データとして蓄積される。第二段階として,毎週FBシートに記入する度に同じ用紙に書かれている今までの自己の誤りが視覚的情報として認識される。その過程における「見ては書く」という繰り返しの中で,「セルフ・フィードバック」によって得られる気づきが自分のものとなるだろう。この二つの段階を経ることで,その都度,自己の誤りと向き合うことになるのである。本実践において,FBシートに記述するにあたり,自己の内面を言語化することが不得意であったり,日本語能力の問題があったりする学習者もおり,個人差はあったが,学習者が自己の誤りに対して分析的に捉えるようになったといえる。これは「セルフ・フィードバック」の実践を通して,学習者が自らの誤りの傾向に気づきが生じるためだと考えられる。毎回5分という短い時間であっても自己の学びを振り返り,自分に問いかけるといった自己分析の習慣を養うことは,自律学習の道筋を形作る大きな要素となりうるだろう。5-3.コミュニケーションツールとしてのフィードバックシート本実践では授業のカリキュラム上,教師は多くの漢字語彙を導入することに時間を費やさねばならず,学習者とのコミュニケーションが時間的にも限られてしまった。しかし,「セルフ・フィードバック」の活動を行うことで,1人1人の学習者に対して教師は個別に対応することができた。FBシートを介することによって,教師が学習者の個々の学びの過程を時系列に見ることができ,学習者の漢字知識の偏りや間違える傾向を把握することが可能となったからである。これはFBシートが学習者への働きかけに留まらず,教師にとっても学習者とのコミュニケーションツールとしての役割を果たしていたといえる。20
元のページ ../index.html#24