早稲田日本語教育実践研究 第4号
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秋山麻衣耶・林亜友美/中上級の漢字学習者による学習者主体の自己分析FBシート使用後はテスト結果上の誤りを改めて確認し,中間テスト期末テストに向けておいて今までは漢字テストの結果の確認がその場限りのものであり,自己の誤りを深く分析することなく終わってしまっていた。学習者はこの時点で,テスト結果に今後につながるヒント(自己の誤り)があるとは考えていなかったことが伺える。しかし,下線7では注意を喚起している。ここから,テスト結果上の誤りの中に今後の学習につながるヒントを見出していると見なすことができる。これは,FBシートという成果物があることで,可視化した自己誤りを確認することができ,さらに教師の指示がなくとも自発的に「セルフ・フィードバック」が行われていることがわかる。次に,「セルフ・フィードバック」の実践は授業内で行う活動であり,授業外で宿題としてなされる活動ではなかったため,彼らの授業外の時間的負担は生じなかったといえる。これに加え,FBシートに学習者が記述した内容は学習者と教師間でのやりとりのみに使用され,他の学習者に公開されるものではなかったことや,成績にも影響しなかったことから,学習者にとって心理的な負担も少ないものであったと考えられる。また,学習者の評価結果①(4□1□1図4)を見ても「おもしろい」が24%を占めていたことから「セルフ・フィードバック」は学習者の意欲を喚起するものであったことが伺える。さらに「簡単だ」が9%であったことから,活動自体が複雑ではなかったことが考えられる。これは,FBシートの1回分の記述枠が小さく,学習内容をメモする程度の感覚で記述できたことが理由であろう。4-2.「セルフ・フィードバック」における学習者の様子授業における学習者の様子を振り返ると,「セルフ・フィードバック」の活動を始めた当初は初めての取り組みに戸惑う学習者の姿もあった。しかし,活動が進むにつれ,漢字テストとFBシートを返却すると同時に教師からの指示がなくとも自発的に自己分析が行われ,集中してFBシートに書き込む姿が見られた。中には,書きたいことが多く,休み時間に入っても書き続ける学習者もいた。また,中間試験や期末試験の前にはFBシートを見直す学習者の様子も見られ,学習者なりにうまくFBシートを自分の学習に取り入れて活用しているようであった。毎回FBシート記入に要する時間は5分という短い時間であったが,その日の学習項目だけではなく,自分の学びを振り返る時間を得ることは,教室を出て自律学習を目指す上で大きな意味を持つといえる。4-3.「セルフ・フィードバック」における教師の振り返り「セルフ・フィードバック」に対する取り組みが容易であった点は,教師にも当てはまるものであった。教師の取り組みは学習者がFBシートに記述した内容に対し,感想などのコメント・問いかけを行うのみであり,1クラス20名前後の学習者数に対して約30分で取り組めるものであった。教師が授業を多く抱え,その準備や採点などに日々追われる身であることから考えると,教師にとっても活動が時間的にも心理的にも負担にならないことは活動に継続的に取り組む上でも重要である。教師が学習者の書いたFBシートにコメントする際,教師自身も1人1人の学習者と向き合う必要があった。従来の漢字テストにおいて,学習者個々の誤りの傾向は添削の回数を重ねる過程で大まかには把握できる19

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