早稲田日本語教育実践研究 第4号
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秋山麻衣耶・林亜友美/中上級の漢字学習者による学習者主体の自己分析学習者インタビュー①とはありますかたことはありましたか容に沿って記述するだけであったのに対し,実践を重ねる過程で次第にFBシートに「〜ができて嬉しい」などと心情を吐露する記述や,「〜はどうやって勉強すればいいですか」といった質問が書き込まれるようになったのである。また,教師が学習上の助言を書いて返却したものに対し,「分かりました!」といったコメントが書き加えられることもあった。このように,FBシートは教師とのコミュニケーションツールとしての機能を果たすことになった。⑤「記録するのが楽しい」に関しては,FBシートを記述するにあたり,書く書式を工夫したり,色を変えたりと自分なりに見やすさを工夫する学習者が現れ,記述すること自体を楽しんでいることがいたことが伺えた。「学習者の評価B」に対しては,人数的には少数であったが,今後の実践を計画するにあたって貴重な意見である。注目すべきは「セルフ・フィードバック」の活動に対し,「あまりよくなかった」「よくなかった」と評価した学習者は,クラス内の成績上位者と下位者のいずれかに位置していたことである。成績上位者の評価として,⑦「役に立たない」,⑨「自分は漢字ができるからシートは必要ない」,⑪「意味がない」が挙がった。その理由として,lおよびmの記述にあるように「セルフ・フィードバック」の実践において,学習者が求めていたものが見いだせなかったことが考えられる。漢字テストで満点をとった成績上位者が,既に自分の苦手箇所を把握しており,それをどう克服するかが課題であった。しかし,本実践では彼らがこの活動を通して新たな課題を見つけるところまで踏み込むことができなかったことを示している。本活動の趣旨は,誤りの分析によって自己の学びと向き合うことであったため,漢字の小テストに加え,復習クイズを課し,毎回20問程度の問題を実施していた。結果として,本実践では満点の学習者は少なかったが,今後,満点の学習者に対する自己分析の促し方についても考えていく必要がある。次に,成績下位者の評価としては,⑧「役に立たない」,⑩「書くのに時間がかかる」,⑫「大変」が挙がった。これは下位者が本実践におけるFBシートの書式では記述する際,日本語での文章の産出が困難であった可能性が高い。それゆえに,自分が考えたことが記述できない,記述する時間が足りないといったことがその理由として考えられる。この点に関しては,FBシートの書式を改良することで改善をはかれるだろう。4-1-3.インタビュー結果最後に,インタビュー結果より学習者4名の実際の発話を取り上げ,学習者評価の内実を彼らの視点を踏まえてより具体的に検証する。下記のインタビュー上のCは調査者(教師),K1〜4は協力者(学習者)のことである。 C: FBシートが大体1枚書きましたよね。その後,何か自分の漢字について,新しくわかったこ K1: んー C: 例えば「漢字の書きが苦手」と言いましたけど,特に間違えやすいものとか,何か気がつい17

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