山2010)のに対し,本研究におけるフィードバックの活動,およびその記録の記入は自秋山麻衣耶・林亜友美/中上級の漢字学習者による学習者主体の自己分析2-3.先行研究②ポートフォリオの応用本研究では,自己の学習と向き合い,自己の誤りに対して自らフィードバックを行うことによって産出した情報を継続的に記録するものとして,ポートフォリオの役割に注目した。ポートフォリオについて,横溝(2000:107)は「学習者の学習の成果を蓄積していくファイルとして機能する」とし,その評価にあたって,「深い内省によって,自分自身の「学び」をしっかり把握し,自律的な学習ができる能力を学習者が身につけていくことが期待されている」と述べている。同様に蔭山(2010:78)も「自分の学習活動を自己コントロールできる能力が養える」と利点を記している。これらの点に着目すると,ポートフォリオは前節で述べたフィードバックによって得た情報を記録するのに適していると考えられる。したがって,先行研究で述べられているポートフォリオの要素は漢字の自律学習を目指す上で必要な要素であるといえる。よって,本研究との重なりが指摘できる。ただ通常,ポートフォリオ学習では,その過程および成果物を評価の対象としている(蔭己分析の機会として設けているものであり,評価の対象とはしていない。この点がポートフォリオとの異なりとして挙げられる。そのため,学習者の心理的負担が少なく,ありのままを書くことができるのではないだろうか。また,ポートフォリオは全ての工程の成果物を入れることが多いのに対し,本実践における記録はテスト結果における誤りだけに焦点を当てたものである。これは,苦手なところを認識し,データとすることで可視化でき,自己の誤りの特徴に対して気づきが生じやすいと考えたためである。本実践では,ポートフォリオの先行研究を踏まえ,フィードバックの実践を行うにあたり,その活動を可視化し,自己分析を行う過程で内省を促すことを目的とする記録用紙としてフィードバックシートを作成した。このシートの詳細は3□2で述べるものとする。2-4.先行研究④自己モニターの位置づけここでは認知ストラテジーの観点から「セルフ・フィードバック」の周辺概念として「自己モニター」に着目した。「自己モニター」の概念を先行研究から考察し,「セルフ・フィードバック」との違いについて述べる。大橋・柳浦(1992)において,「自己モニター」は学習評価の一つに位置付けられており,「自らの誤りや理解の困難な点を見つけ出し,その原因を取り除こうとすること。たとえば雑誌を読んで解りづらい箇所があれば,語彙・文構造・背景知識などのうちどこに問題があるかを見つけ出し,これに対処する」と述べられている。日本語教育領域では主に音声教育の研究において散見されるストラテジーである(小河原1998,河野2010)。これは音声には規範となるモデルが存在することから,「自己モニター」の活動を学習過程に取り入れやすいのであろう。漢字学習も規範となるモデルが存在するという点に関しては同様のことがいえる。「セルフ・フィードバック」は「自己モニター」の概念を含むものであるが,特に学習者の誤りに焦点を置き,フィードバックシートを媒介にした学習者と教師とのやり取りが行われる一連の活動であることから「自己モニター」の範疇には収まらないと考える。11
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