早稲田日本語教育実践研究 第4号
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早稲田日本語教育実践研究 第4号/2016/7―23ことが習慣となるとメタ認知能力が育まれ,それがゆくゆくは自律学習へとつながることが期待される活動である。授業の中で自己と向き合う機会を設けることによって主体的に得られる学びは,ほかの誰のものでもないその学習者だけのものとなる。学期を終えて教室から離れた時に学習者が自身に対し,「セルフ・フィードバック」によって自己分析を行えるようになれば既存の学習ストラテジーの見直しが生じ,結果としてそれが自律学習へとつながると考えられる。つまり,教室はただ知識を得るだけの場ではなく,自己の学びと向き合う場となりうるのである。2-2.先行研究①フィードバックの意義鈴木(2005:868)によれば,フィードバックの概念は「行動主体が自己の行動の結果についての情報を取り入れて,次の行動のためのデータとすること」であり,その技法として「誤りに対し,もう一度考えさせる,誤りの理由がわかるような説明を提示すること」を挙げている。これを漢字学習に当てはめたとき,行動主体が自己の行動の結果についての情報を取り入れられる主な機会は漢字テストであろう。しかし,テスト結果における誤りに対し,教師が正しい漢字を書いたところで,それが学習者の誤りの原因を取り除くことにはなるとは限らない。これは誤りが生じた理由によってそれぞれの学習者に必要なフィードバックが異なるからである。また,教師が一方的な外的フィードバックを行うだけでは,それに対して学習者の中で内省が行われているのか,また行われている場合,どのような内省が行われているのかがわからない。よって,学習者が学習上の困難を抱えていようと教師はそれを把握できないため,それ以上の働きかけをすることができないのである。そこで本研究では,漢字テストの結果についてフィードバックを行う際に,教師からの一方的なフィードバックを行うのではなく,テスト結果に現れた自己の誤りに対して学習者に自己分析を促す機会を設けた。これは,学習者なりの分析,気づきを自分のことばで記述し説明することによって,それぞれの知識の偏りや間違える傾向を把握するようになるのではないかと仮説を立てたからである。このような学習者の自己分析によるフィードバックは内的フィードバックといえるが,学習者が記述した内容に対し,教師が感想などのコメント・問いかけをすることによって外的フィードバックの要素も加わることになる。つまり,本実践は内外の両面からフィードバックを行い,学習者の学びに対して働きかけるものなのである。自己評価活動における外的フィードバックについて岡・黒岩(2002:518)は「自己評価活動に対する外的フィードバックはメタ認知能力および学習効果を高める」と指摘している。また,鈴木(2002:869)もフィードバックによって「次回の学習を調節するばかりでなく,達成感や満足感を得て学習の動機づけを高める」と述べている。漢字学習はその性質上,学習に終わりがなく,上達している実感を得難い学習項目である。そのため,学習を継続させるためにも,このような達成感や満足感を得られるフィードバック活動のもつ意義は大きいといえる。10

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