早稲田日本語教育実践研究 第4号
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早稲田日本語教育実践研究 第4号/2016/7―232.「セルフ・フィードバック」に向けてのために,それぞれの学習者の漢字知識の偏りや誤りの傾向を把握する一つの手段として,テストの結果を継続的に分析し,問い直すことが挙げられる。その中でもテストの結果における誤りには,学習者それぞれの誤りの傾向が現れるものである。それらを把握し,自らの学習過程で活かすことができるようになれば,教室を離れ自律学習を目指す上でも有効だと考えた。1-2.実践から生じた問題意識本研究は,漢字学習を行う上でただ漢字を学ぶだけではなく,その根本にある漢字学習ストラテジーにも着目し,実践に臨んだものを検証したものである。ここでは,本実践の起点となった問題意識について述べる。秋山・林(2015)は,漢字テスト結果における誤りの自己分析を継続的に行うことによって学習ストラテジーの見直しや変容が生じると仮説をたて,中上級漢字学習ストラテジーを調査した。調査結果から,漢字圏学習者は漢字を学習する際に工夫が少なく学習ストラテジーが限定されていること,非漢字圏学習者は学習ストラテジーが多様に存在することを明らかにした。これは,両者ともにどの学習方法が自分に合っているのかまだ定まっていないとし,どちらにも漢字学習ストラテジーの特徴が見られることを指摘している。その結果に対し「学習ストラテジーに偏りがあるということは,学習結果にも偏りが生じ,漢字テストの結果にも影響が現れる。つまり,テスト結果を継続的に見ていけば,その偏りを認識できるはずである。」と述べている。さらに「現状として学習者はテストの結果のみに着目し,原因の分析にまで至っておらず,学習ストラテジーの見直しによる改善の可能性を見落としているのではないか」と問題提起している。本研究は「セルフ・フィードバック」の実践を通して,学習ストラテジーを見直すことで自己の学びを問い直すという点において,この研究を引き継ぐものであるといえる。本研究の実践で提唱した「セルフ・フィードバック」という用語そのものを用いた研究はこれまでに見られない。そこで,まず2□1において「セルフ・フィードバック」の定義を行う。さらに,その周辺概念として先行研究より2□2フィードバック,2□3ポートフォリオ,2□4自己モニターについて概観する。最後に2□5においてこれらの周辺概念の相関を,図を用いて説明する。2-1.「セルフ・フィードバック」の定義本研究では,漢字テストにおける学習者の誤りの傾向を把握するための手段として,テスト後のフィードバックのあり方に着目した。テスト結果上の誤った箇所が同じであろうと,その誤りが生じた理由が認知スタイルによって生じるものなのか,または母語の干渉によるものなのかなどといった,それぞれの要因によって個々の学習者に対して必要なフィードバックは異なる。そのため,本研究における実践では教師がクラスに対して一方的にフィードバックを行うのではなく,個々の学習者が自らの誤りに対して自己分析を行8

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