早稲田日本語教育実践研究 第4号
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秋山麻衣耶・林亜友美/中上級の漢字学習者による学習者主体の自己分析本研究では,学習者が自己と向き合う活動としてフィードバックの実践の過程に焦点を当て,その結果の分析と考察を通し,学習者が主体となる漢字学習を目指した。これは,漢字テストにおける誤りに対して,学習者が自ら気づき,その原因を分析し,学習方法を問い直す活動(「セルフ・フィードバック」)を行ったものである。実践後に行ったアンケートおよびインタビュー結果から,学習者に自己の誤りに対する気づきが生じたこと,書くことが自己の学習と向き合うことにつながったことがわかった。また,実践時に用いたシート(フィードバックシート)が学習者と教師のコミュニケーションツールとしての働きをしていたことが明らかになった。今後の課題としては,「セルフ・フィードバック」の実践で生じた気づきや問題意識に対して,どのように働きかけていくかの再考,フィードバックシートの改良が挙げられる。キーワード:中上級漢字学習者,フィードバック,誤り,自己分析,問いかけ要旨1.はじめに秋山 麻衣耶・林 亜友美早稲田日本語教育実践研究 第4号 1-1.問題提起日本語教育において,文法などを学ぶ総合的な日本語クラスでは,学習者の言語的な背景に関わらず,教室で教師から得る学びに加え,学習者同士の相互作用による学び合いが期待できる。一方,漢字を学ぶことに特化したクラスでは,言語的背景による影響を受けざるを得ない。これは,漢字の基礎的な知識の差によって生じる漢字習得上の困難点や,漢字を学ぶ上での認知スタイルが異なるためである。さらに中上級学習者は,漢字学習における個々の学習ストラテジーが確立しつつあるため,学習者同士で学び合うことより個人の中で自己の学習に向き合うことが多くなると考えられる。それは漢字は数が多く,多義性が高いという性質から,教師が教室で全てを教えることは困難であり,漢字教育の目指す先は学習者自身によって主体的になされる自律学習であるということからもいえる。漢字学習が最終的に学習者の手に委ねられるものであるなら,彼らがその過程において教室に来ることはどのような意味を持つのであろうか。筆者らは,漢字の授業に携わる中で,学習者が各自の漢字語彙知識や運用力といった漢字能力を正確に把握できていないことが多いと感じた。例を挙げると,漢字圏の学習者は漢字の読み,特に,訓読みを苦手とすることが多いが,訓読みの中でもどのような読みが苦手かということを認識している者はわずかであろう。自律学習という最終的な目標を視野に入れたとき,その過程において自己の認知スタイルを把握することは重要である。そ【論 文】7中上級の漢字学習者による学習者主体の自己分析―自己と向き合う「セルフ・フィードバック」の実践―

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