早稲田日本語教育実践研究 第3号
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49小池恵己子/初中級教材とスキット作成による会話の授業科目名:男女の会話から学ぶ「ていねいな話し方」「うちとけた場面での話し方」レベル:初級1・2/中級3・4・5/上級6・7・8履修者数:平均32名早稲田日本語教育実践研究 第3号 1.この授業のねらいこのテーマ科目のキーワードは「話す」「聞く」「生活」で,身近な生活の場面で,状況や人間関係,会話の目的に応じて,丁寧体と普通体を変えて話せるようになることを到達目標にしている。日本に初めて来た学習者が,今まで使ってきた丁寧体では友だちに話す時に丁寧すぎることに気づいたと感想を述べていた。また,女性らしい話し方で話したいと希望を述べた学習者がいた。男女のことばの差は縮まったと言われるが,女性が使うと乱暴に聞こえる言い方,あるいは男性が使うと優しすぎる話し方は確かにある。そうした違いに気づき,話し相手や状況によってことばや表現を適切に使えることを目指している。2.授業で行った学習活動の取り組み学習活動は大きく3つにまとめられる。①話しことばの特徴の確認,②男女が話す短い会話,および機能に重点をおいた会話による学習,③スキットの作成と発表である。話しことばの特徴のうち,基本となる縮約形,音変化,語順などを主に前半の授業の始めに練習している。「行きましたか」「行ったんですか」,「行く?」「行くの?」の表現意図の違いや,「〜じゃない」のイントネーションによる意味の違いなど,文脈に左右されるものは会話の練習や発表後のクラス全体のフィードバックで練習する。普通体で顕著に特徴が表れる男女のことばは,述部に着目して会話文の中で練習する 1)。丁寧体で書かれた会話の内容を理解してペアで練習した後,その会話を親しい友人の場合に変えて普通体で言い直す練習をする。そして,教材の男女の役割を逆にして男女のことばのどこが違うかを考えて,音声で確認して練習する。丁寧体/普通体の変換自体を難しく感じる学習者もいるため,男女のことばの違いは基本的なものにとどめている。また,日常会話で重要だと思われる謝罪,感謝,確認などの機能を選び,それに合った初中級の会話教材(音声・映像)を用いて練習する 2)。会話の人物の立場を入れ替えて練習することもある。既成教材の会話文を使うのは,さまざまな話し手の会話を音声で学習者に示すことで,その韻律や表現を,学習者自身が言いたいことを表現するときの素材にしてほしいからである。依頼の応答練習では,物の貸し借りなどの練習の他に教室外で自分の使った依頼表現と相手の反応を書いてくるのを宿題にしている。実際に使った日本語を記述し,振り返ることで,頼むときには丁寧な態度も大切だと気づいた学習者がいた。スキットの作成とその発表はペア/グループで3回実施する。学習者の組み合わせは毎回替える。テーマは授業で扱った「お礼を言う」「謝る」「誤解を解く」「問題を解決する」などである。話の内容,場面,人間関係などの設定,会話のスタイルの選択は学習者が自由に決める 3)。学習者から質問があれば,表現したい状況に沿って会話の流れや待遇表現,【実践紹介】初中級教材とスキット作成による会話の授業小池 恵己子

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