早稲田日本語教育実践研究 第3号
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48 いう自分の名前に「吐夢」という漢字表記をあてはめていた。しかし,「吐」にはvomitの意があるので,それに代わる漢字として「戸」や「都」などを勧めた。このように,漢字の含意を慎重に調べ,自分の名前にふさわしい漢字を選ぶよう示唆した。2)同様に,カナダ人のLinという名の女子学生が,「鈴」という漢字にカタカナを添えて,自分専用のハンコを作り,日本土産として持ち帰った例を話した。3)そこから,日本文化として押印の習慣やハンコについて簡単に説明し,Youtube動画でハンコの手彫りの様子を視聴し,Sの興味を喚起した。当該発表日には8名が出席し,出欠簿の順で前述の手順どおり発表した。Tはストップウォッチを使い,それぞれの発表者に3分の時間配分を明示した。3-4分ほどの発表が終了後,ただちに,その発表者のパフォーマンスについて,評価表を用い,TならびにS全員で評価した。評価対象は,1)Explanation,2)Pronunciation,3)Grammar,4)S同士互いに改善を助けるよう奨励した。評価表は,Tがスクリーニングすることなく,聴衆の生の声として,それぞれ発表直後,Tの評価表を一番上に乗せてまとめ,発表者に渡した。3.おわりにこのように,非漢字系初級漢字コースの授業で,出欠確認に代えた漢字の板書や,自分の名前の漢字表記の説明などを行い,「個人発表」のリハーサルとした。さらに,匿名のピア評価で,それぞれの「話す」パフォーマンスについて改善の機会を与えた。こうして,日常的に見かける漢字表記やその含意に注意を払いつつ,段階的な漢字体験や日本語による発表体験を重ね,本番の「個人発表」では,どの学生も落ち着いて余裕をもって発表できていた。こういった段階を追った活動で小さな成功体験を積み重ねることで,また,Sの自信やモチベーションを高める効果もあったのではないかと筆者は考える。モチベーションを高めていくストラテジーについて述べている(Dörnyei 2001)。今回の漢字発表における成功体験が,日本語学習全体に対するSの自信やモチベーションへとつながれば幸いである。参考文献Dörnyei, Z. (2001). Motivational strategies in the language classroom. Cambridge: Cambridge University Press.Fluency,5)Attitudeの5項目で,評価はNot good-----OK----Good----Very good-----Excellentの5段階とした。この評価は匿名とし,発表者に宛てた詳細なコメントを入れて,Dörnyeiは,わずかな成功体験を積みかさねることで学習者に自信を植え付け,学習への早稲田日本語教育実践研究 第3号/2015/47―48(せんすい やすこ,早稲田大学日本語教育研究センター)

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