43宇都宮陽子/初級クラスで自分のきもちを話す試み科目名:初級から話せるじぶんのきもちレベル:初級1・2/中級3・4・5/上級6・7・8履修者数:35名宇都宮 陽子早稲田日本語教育実践研究 第3号 1.設置の経緯とねらい筆者は,初級学習者の「話したいのになかなかスムーズに話せるようにならない」,「教科書の文法を勉強しても会話が続かない」という悩みを多く聞き,テーマ科目として初級会話クラスを設置し実践してきた。クラスでは場面に応じた会話パターンを繰り返し練習し,日常生活に使えるようにするという目的で授業を行った。しかし初級会話クラスでは,学習者が様々な場面ごとの会話の組み立てを習得できても,より深い感情などの部分を話す練習をするには時間が不足していた。初級学習者は,形式的なあいさつなどの会話ができるようになっても,自分のきもちを相手に伝えたり,相手のきもちを理解したりするのはハードルが高いと感じていることが多い。しかし筆者は,日本語を学ぶ面白さは勉強したことばで自分自身の経験や考えを表現し,それを通して他者と共感し合うことであると考えている。その実現のために,既習項目や語彙を使い自分のきもちを表現する方法を練習する実践を行ってみたいと考えた。2.授業の目的自分のエピソードやきもちを,すでに勉強した日本語に結び付けて表現できるようになること。相手の話していることやきもちを聞き取り理解することができるようになること。3.授業の概要と流れクラスはテキスト『わたしのにほんご』(杉浦他2011)をもとに,毎回話すテーマを定めて行った。扱ったテーマと内容の例を表1に示す。テーマは一回の授業で完結するようにし,最後に学生自身の「わたしのストーリー」を完成させるようにした。授業は,前回のテーマの発表から行う流れとし,数名の学生に「わたしのストーリー」を発表させた。これは前回の授業を復習し,新しいテーマの練習にも応用できるようにと意図している。続いて今週のテーマを始める導入として関連した写真や絵を提示し,自分の生活とのつながりを考えさせてブレーンストーミングとした。次に,テキストにある絵を見ながらそのテーマについてのモデルCDを聞く,話す,ディクテーションするという順序で,話の構成や自分のきもちを表現する例を,いくつかのバリエーションと共に練習した。この後,自分自身のストーリーを考える,話す,友達と質問のやり取りをするなどの練習を行い,「わたしのストーリー」を作っていった。授業には学生ボランティアを入れ,話し合いの活性化や「わたしのストーリー」を作るときの手助けをお願いした。学期末には,学生が【実践紹介】初級クラスで自分のきもちを話す試み―「初級から話せるじぶんのきもち」の実践―
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