早稲田日本語教育実践研究 第3号
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34早稲田日本語教育実践研究 第3号/2015/33―423.授業実践ちのライフストーリー』(以下,テキスト)を使用し,毎回,テキストを1章ずつ読み,クラスでディスカッションする形を基本としている。シラバスの<授業概要>には,このテキストに出てくる人が,「日本国外で幼少期を過ごしてから日本にやってきた人,あるいは日本国外から日本にやってきた親や国際結婚した親のもとに生まれ日本で幼少期を過ごし成長した人たち」であり,「幼少期に複数言語環境で成長したという点」で共通点があり,これらの人を本授業では「移動する子ども」と呼ぶことが説明される。そのうえで,本授業ではこれらの「移動する子ども」として成長した人が語るライフスト−リーを読みながら,その人が幼少期に複数の言語をどのように習得したのか,またその人の言語能力に対する意識と自らの生き方とがどうつながっているのかを考えることがねらいであると説明され,<授業の到達目標>として以下の5点が提示される。1.「移動する子ども」という現象は,世界中で見られるグローバル・イシューであることを理解すること,2.また複数言語環境で育つ子どもたちが,大人になるとどのような言語能力意識を持つのか,さらに,3.そのことが自己形成やアイデンティティにどう影響するかを考えること,4.「移動する子ども」にインタビューをするか,自分の過去を調べるかのどちらかで,質的調査の基本を学ぶこと,5.これらのことから,複言語主義,複文化主義を理解し,自分の生き方を考えること,の5点である。次に,本授業がどのようにデザインされ,実施されたのかについて具体的に述べる。本コースは上記の到達目標をめざして,コース全体を4つのステージに分けてデザインされた。「ライフストーリーを読む」第1ステージ,「ライフストーリーから考える」第2ステージ,「ライフストーリー調査の準備」の第3ステージ,そして「ライフストーリー調査の実施」の第4ステージから構成された(表1参照)。教師は,第1ステージの初回の授業では授業概要等を説明し,2回目の授業では幼少期から複数言語環境で成長する子どもについて映像を交えて解説し,その背景となる社会的状況,子どもが直面する課題,子どもの生とアイデンティティ等についての講義を行う。3回目の授業からテキストのライフストーリーを毎回,1章ずつを読み,クラスで議論をしていく。3回目はセイン カミュさん,4回目は一青妙さん,5回目は華恵さんのインタビューを読む。毎回の授業の最後には書く課題を提示し,受講生が自分の意見を書くように工夫した。たとえば,初回は受講動機,2回目は講義で紹介した複数の子どものうち,印象に残った子どもの例をひとつあげ,その理由を書くという課題を与える。3回目からは,A4サイズのコメントシート(後述)を配布し,そこに意見を書かせた。受講生は学部の1年生から4年生,短期留学生など多様な背景を持つ学生であるが,どの受講生もこの段階ではライフストーリーを読み,考え,自分の意見を述べることに慣れていない。そのため,第1ステージは,テキストに登場する人々が生まれる社会的状況を説明し,そこに生きる人の語りを読むことにまず慣れることをねらいとした。第1ステージの3回目から使用する「第1ステージのコメントシート」には,「この章を読んで,思っ

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